裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

「ハッピーエンド」タグのついた記事一覧

水煙

Category:山岸凉子

水煙
1986年

時じくの香の木の実(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



「都の人はみんな冷たいんだよ 一人を除いてはね」

男大迹大王(おほどのおおきみ)と婢の子である13歳の阿豆王(あつのきみ)は、後見人のクロヒトが死に、父の唯一の手がかりである耳飾りを手に都へ向かうが…。


えーと、処世術に長けた少年が「王子様」として扱われることは最初から諦めて、一目父に会う、ついでに将来は武人になるために都に出てさまざまな経験をするという、なんだかちゃんとした歴史もの短編。
…やっぱり私、山岸先生の作品は人が死んだり精神に異常をきたしたりしてないと物足りな…(←ひどい)
都で出会い、その後も何かと阿豆にちょっかいを出してくる青年・次次雄(ススオ)と阿豆のやりとりはちょいBLのかほり。この次次雄、阿豆が辛い時はさり気なく助けてくれるんです(しかも阿豆をコチョコチョとくすぐるのが趣味なんだぜ、この人…)。
実はこの次次雄が次の大王で、阿豆の異母兄でしたーというハッピーエンド。よかったね。しかしラストシーンはこれ、BL的にいろいろな想像をかき立てられるな…。腐敗した朝廷の次期王と王子の兄弟愛か…。いける。

辛く孤独な生活で、父の耳飾りが唯一の心の拠り所だった…というシーン、なんか別のマンガで見たなーと思ったらあれだ。幽遊白書の飛影と氷泪石だ。こっちの方が古いけど。

木花佐久夜毘売

Category:山岸凉子

木花佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)
1986年

瑠璃の爪(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 月読(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



わたしの名前は姉がつけました 典子…と

高校生の典子には3歳上の姉がいる。姉の咲耶は子供の頃から優等生で、両親は咲耶ばかり可愛がっていた。
さらに自分の名前「典子」まで「たった3歳の咲耶が名づけた」という自慢話の種にされ続けた典子はすっかりひねくれてしまっていたが…。


山岸先生だってたまには人死にの出ない姉妹ものを描くよ!ということで、木花佐久夜毘売です。
「美人ではないけど優秀な姉」と「美人だけど不出来な妹」という構図は『瑠璃の爪』と同じタイプですね。親が偏愛する対象が逆ですが、どっちも妹が主人公。
姉ばかり愛される家庭で育ち、すっかり不良娘になってしまった典子。いつもどおり夜遊びをしていてエロ親父にからまれた典子を助けてくれたのは偶然にも、咲耶の元同級生・飛渡でした。

「あたしは姉さんとは違って頭悪いから 勉強なんか大嫌い!」

ここで典子が飛渡くんに話す昔話(典子がテストで100点取ったことを姉さんのおかげということにされた)から察するに、咲耶は普通に性格悪そうなんですが…。クスッて…。咲耶さん、家での評価はさておき学校に友達いるのかしら。心配。

飛渡くんは典子の名前に対するコンプレックスがわかります。何故なら彼の名前「圭」も、死んだ兄の名をそのままつけられた名前だからです。

「姉さんにつけてもらった名前…それ自体はいいんだ。
それはすばらしい事だよ。すばらしい……だけど そこにきみがいない。
そこには3歳で妹に名前をつけた天才の咲耶さんはいてもきみが…きみの存在が…」


初めて自分のことをわかってくれる人に出会えた典子は泣き崩れ…。
それ以来、典子は子供の頃からの辛かった話を全て飛渡くんに話すようになります。
このお話は「姉妹もの」には珍しくちゃんと救済者が現れるのでハッピーエンドになります。最後の新幹線のシーンのしおらしい典子がかわいい。

わたしでも木花佐久夜毘売になれますように

このお話を読んで思ったんですが、『鬼子母神』の瑞季ちゃんといい、山岸作品の「兄弟姉妹と比べられる」系の主人公の場合、ちょっと一時期グレてた子の方がその後の人生うまくいってる気がします。両親の言うこと真面目に聞いてないで、てきとーに反発しちゃった方がいいのかも知れませんね。二人とも家での評価はダメ人間でも学校ではそこそこ人気者だったし。
家庭で顧みられない子が外の世界に居場所作れてる描写を見ると安心します。『常世長鳴鳥』の雪影なんかそれすらなかったもん…。

スピンクス

Category:山岸凉子

スピンクス
1979年

スピンクス(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子作品集〈7〉傑作集1 スピンクス』(白泉社)
山岸凉子全集〈27〉クリスマス(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子恐怖選〈3〉千引きの石(ハロウィン少女コミック館)』(朝日ソノラマ)
自選作品集 ハトシェプスト(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



その頃僕は魔女の館に住んでいた

「僕」は魔女の館に住んでいた。「僕」は真っ白な部屋に来る日も来る日も立っていた。
毎日毎日「スピンクス」がやって来て「僕」に質問をする。声も出ず体も動かせない「僕」は「スピンクス」に弄ばれる。


山岸作品は父親・娘の近親相姦を描いた作品はやたら多いですが、この作品は珍しく母親・息子の癒着を描いています。
「しゃべりたいのにしゃべれない」「動きたいのに動けない」「紙でできた食べ物を無理矢理食べさせられる」「ぐっしょり濡れた毛布」など、「僕」=アーチーの悪夢が本当に感覚的で気持ち悪い。

どぎつい顔に大柄な裸体、尖った赤い爪を持ったライオンという、アーチーの恐怖を具象化したような「スピンクス」として登場するのは彼の母親。ねめ回すような目つきがいやらしい。
スピンクスが作った紙人形がアーチーの体を舐め撫で回すシーンはかなり性的なイメージ。

恐怖と嘔吐しそうな嫌悪で一杯になりながら
僕は彼女に抱かれる

地獄だ地獄だ!
(それでも彼女の腕は暖かい)
声があるなら叫びたい 涙があるなら泣きだしたい
(それでも彼女の胸は暖かい)


後半は壁画の中(病院)。母親がスピンクスだったり病院がエジプト壁画だったり、アーチーの精神世界はエジプト仕様。
ある男の人が出てきてアーチーに優しく話しかけてくれるのですが、アーチーは恐ろしいスピンクスの言うとおり、その人を無視しなければいけません。
自分を助けてくれそうな男の人に感情が伝わらないことに心底悲しむアーチー。

「おまえが生きていけるのはここだけ。
おまえが生きていけるのは この私とだけよ」


淫らな母親と子宮の中の胎児、ドアの外の開かれた宇宙…の絵がなんかすげー!

この話は冒頭からアーチーの心地悪い目線でずっと進んでいたので、アーチーが優しい男の人・ブロンクス医師に気持ちを伝えることに成功するハッピーエンドでよかった!

「あのスピンクスはだれ?」
「あれはきみの愛情と憎悪 不安・混乱」
「なに? なんて言ったの」
「ううん きみの不安がああいった形で見えたんだよ」

あの陽光の中に時々かげって見えるのは あれは…
そうだ 今は少しもおそろしくない魔女……スピンクス


光溢れる、妙に爽やかな終わり方が印象的です(同じ近親相姦話でも父娘系はけっこう気味の悪いかんじで終わる作品が多い気がするので…)。

シュリンクス・パーン

Category:山岸凉子

シュリンクス・パーン
1976年

メタモルフォシス伝〈2〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
シュリンクス・パーン(ロマンコミック自選全集)』(主婦の友社)
山岸凉子作品集〈9〉傑作集3 黒のヘレネー』(白泉社)
黄泉比良坂(ボニータコミックス)』(秋田書店)
山岸凉子全集〈30〉愛天使(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
自選作品集 シュリンクス・パーン(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈5〉天人唐草(あすかコミックス・スペシャル)』(潮出版社)
に収録。



その一 オールド・バターシー・ハウスの所有者となる者は必ず当館に居住すべし
その二 パーン一匹飼育すること


大学を卒業したばかりの新人小説家オシアンは、亡くなった叔父の屋敷を受け継ぐが、そこにはシュリンクス・パーンと名乗る謎の少年がいた。
オシアンとシュリンクスは奇妙な半同居生活を始める。


山岸先生お得意の、神話から想を得た短編。
面倒見のいい兄ちゃんのオシアンが牧神パーンの面影を持つ中性的な少年シュリンクスにプリンを食べさせてやったり文字を教えてやったりする、どちらかというとほのぼの系のお話です。ラストは(予想してたけど)とある事実が発覚してハッピーエンド。

私的には話に登場しないにも関わらず濃いエピソードを残す変人チャールズ叔父という人物の方が気になってたりします。30年間家から出なかったりシュリンクスに自分の厭世観すり込んだり自分をパーン族という設定にしたり人間を一匹と数えたり…。いいキャラしてるぜチャールズ叔父。

オシアンに出会うまで、偏屈者のチャールズ(大きいパーン)に飼育されていたシュリンクスの
「人に愛してもらえない人間をパーンっていうんだって」
という言葉が物悲しいです。結局この子の出自は出てこずじまいでしたね。

それにしても山岸先生は妖精っぽいヒラヒラした絵を描くのが上手い。
山岸先生の描く半分裸みたいなギリシャ神話系の衣装が好きです。

赤い髪の少年

Category:山岸凉子

赤い髪の少年
1973年

赤い髪の少年 (サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子全集〈31〉黒のヘレネー(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈13〉妖精王3
に収録。



「なぜ彼のことをにんじんと呼ぶのです? 髪が赤いからですか?」
「あの子の心ときたら髪よりすごい色なんですのよ」

大学院生のエマニュエルは従兄の息子のステファヌと出会う。
「にんじん」と呼ばれるステファヌは母親から虐待を受けていた。


ジュール・ルナールの『にんじん』を元に描かれた作品です。
夫との不仲による苛立ちを息子にぶつける母親がひどい! ステファヌの失くし物をこっそり隠して「さがしておいで。見つけるまで家に入れませんよ」とか、楽しみにしてた芝居に一人だけ行かせないようにしたりとか…。
本当に実の母なのかと疑うほどの陰湿な虐待。暴力は振るわなくとも、こういうネチネチしたいじめも充分酷いですね。他に兄姉が二人もいるのに、なぜか末っ子のステファヌ一人が標的になっているあたり、リアルです。父親も何とか言ってやれよ…。

どうしてこんな目にあわなくちゃいけないんだ
ママはぼくが憎いんだ 憎いんだ!


大好きだったはずの猫を発作的に殺してしまい、「だれもぼくを愛してなんかいない」と泣きじゃくるステファヌを暖かく受け止めるエマニュエル。いい人です。目指せ『籠の中の鳥』でいうところの人見さんのポジション。
自分の悲しみを自分より弱い者(猫)にぶつけて殺してしまった今のステファヌと、ステファヌのママは同じなのだとエマニュエルは言います。

「悲しみや苦しみをうまく処理できない人っているんだよ。
きみはあのネコが好きだっただろ。だけどあのネコはきみをうらんじゃいないと思うよ。
きみの悲しみを知っていただろうから きっときみを許してくれてるよ。
ママだってきみを憎んであんなことをするんじゃないんだ。
こうせざるをえないんだよ。悲しい人なんだよ」


「ママのこと まだよく理解できないけど…
でも おじさんがぼくを愛しててくれるんだったら……
それだけをたよりにぼく やってみるよ」


小説の『にんじん』には、このエマニュエルおじさんという「救い」は出てこないようですね。
原作読もうかな。

ティンカー・ベル

Category:山岸凉子

ティンカー・ベル
1973年

ティンカー・ベル(サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子作品集〈8〉傑作集2 ティンカー・ベル』(白泉社)
山岸凉子全集〈26〉天人唐草(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



「彼女に会うと いやなことはみんな忘れるわ。
小さな時からずっと彼女だけが友達だったの」


ダフニーのたった一人の友達は、小さい頃から側にいたティンカー・ベルだけだった。
ダフニーが悲しい時、ティンカー・ベルだけがいつも彼女を慰めてくれていたが…。


山岸凉子初期の青春物語。
小さい頃から美しい母・姉妹と比べられて育ったダフニーは、妖精のティンカー・ベルとしか会話をしない孤独な15歳。
『ピーターパン』に出てくるティンカー・ベルとは違って等身大なティンクが新鮮です。

クラスメイトの兄であるギーは、ひょんなことからダフニーを気にかけ始め、初めは心を閉ざしていたダフニーも、ギーの優しさに少しずつ心を開き始めます。
このギー兄ちゃん、ただの優しいハンサムではなく、わりとひょうきんキャラなところが良いです。

「いるんだよ。きみにだけ」
「あたしにだけ!?」
「そう…きみには必要だった。だれかが。
きみをすこしもかなしませないだれかが。
だけどこれからは そのだれかとはティンカー・ベルじゃだめなんだ」


ギーと仲良くなるにつれ、ダフニーの目にはティンカー・ベルが見えなくなっていきます。

最後は火事の中に取り残されたギーをティンカー・ベルが助けてハッピーエンド。
「たしかにティンカー・ベルはいたよ。ダフニー」
「まあいいのよギー。話を合わせてくれなくても。あなたにいわれてよくわかったの あたし。
あれはやっぱり あたしの心がつくったものなんだわってね」

「ダフニー きみにはもうティンクの姿が見えないんだね」

ダフニーの周りに吹き抜けるのはティンカー・ベルの金粉ではなく青春の清風…。
自分の容姿に自信がないダフニーが学園祭で初めてドレスを着て口紅をつけるシーンが結構好き。

顔の石

Category:山岸凉子

顔の石
1991年

牧神の午後』(朝日ソノラマ)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世の長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



30の大台に乗った妙子は「42の再婚のオジンでしかも中2のコブつき」と結婚した。
結婚相手の平山の娘・千愛(ちえ)は明るく素直でしっかりしたいい子で、妙子のことを「ママ」と呼んでくれる。
順調な結婚生活のように思えたが、平山家では不思議な現象が起こるようになる。


山岸先生のポルターガイストもの。
揺れるコップ。部屋の物音。散る花。飛ぶ座布団。
普通にカレー食べてる千愛ちゃんの横で座布団がプカプカ浮いてる1コマはなんかシュールです。
テーマのわりには描き方が怖くないのがありがたい作品。
妙子の夢に出てきた真っ赤な石炭ストーブと白無垢の花嫁は何の象徴?

「お父さん お母さんに約束したじゃない
他の誰とも結婚しないって!!」


千愛ちゃんが「お父さん心当たりない?」とか「お母さん怒ってる」とか言ってたのに、平山パパも鈍いですね。

「わたし…良い子で成績のいい千愛ちゃんを望んでいるのじゃないのよ。
それに千愛ちゃんのお母さんの代わりになれるなんてうぬぼれてもいないわ。
だけど 千愛ちゃんとはお互い思っていることをズケズケいえる
親友のようになりたいと思ってるの」


最後は妙子・千愛二人のお料理シーンというハッピーエンド。よかったー。
こういう、奇妙な出来事が起こりつつも悲惨な事件につながらない山岸作品って珍しいかも?
ポルターガイストは思春期の子供が起こすことが多いというのは有名ですが、「その家の霊が子供のエネルギーを利用する」という説は初めて知りました。

そういえばタイトルの「顔の石」の意味が謎です。検索しても「変な顔の石見つけた」みたいな記事ばかり引っかかるのです。

※タイトルについて追記(2010.8.23)
『山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉』の創作秘話より

予定していたストーリーと全然違う内容になったので、
中身とタイトルがまーったく関係なくなってしまいました。

あ、そうなんだ。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.