裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

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雨女

Category:山岸凉子

雨女
1994年

押し入れ(AmieKC)』(講談社)
押し入れ(KCデラックス)』(講談社)※上の復刻
に収録。



「お母さん あのおじさん 長い物を引きずってるよ」

三田数良はその恵まれたルックスで数々の女を物にし、金目的で手にかけてきた。女たちの愛と怨念に取り憑かれることになるとも知らずに…。


主人公の女性はおそらくジェイン・ドゥさんこと千鶴子さん(作中では名前が出てきません)。自分が数良に殺されたことに気づかず、数良を見つめ続ける。
この千鶴子さん、ところどころのコマでさりげなーく首に布が巻き付けられています。山岸先生ってたまにこういうことしますよね。『汐の声』のロングのシーンの床のアレとか。あれはびびった…。
この作品は出てくる幽霊二人とも自分が死んだ自覚なしで勝手に動いてて変なかんじ。

三人目の女・よし子も殺してしまう数良。でもマスコミに対しては涙で応答してみせます。演技派です。一方その頃、千鶴子の遺体が発見されます。
今まで視点キャラだった千鶴子が一瞬で「ゴミ袋に詰められた死体」になったシーンはけっこう怖かった…。なんかね、「人を脅す気のない幽霊」って怖い…。黒いゴミ袋の中で正座ですよ?
冒頭の「立てない!?」のシーンの変な外枠はゴミ袋だったんですね…。あの頭をつかえてつんのめった体勢の意味がここでようやくわかるという。

マスコミに囲まれながら帰宅する数良。数良のうしろから「長い物」が繋がっていることに、近所に住む少女だけが気づく。

罪が暴かれようと暴かれなかろうと
彼は“長物”を引きずっている
これが人間に憑く背後霊の中でも もっともたちの悪いものだそうな


さて、「三田数良」の元ネタこと三浦和義は2008年に留置所で首を吊った状態で死んだわけですが、自殺であれ他殺であれ事故であれ、「長い物」が首にグルグル巻き付いて死んだ…と考えると何だか辻褄が合ってて恐ろしいですね!(首つりに使われたのはTシャツらしいけど)
前にテレビかなんかで見た霊能力者も「三浦和義には女の長い髪の毛がグルグルまとわりついている」的なことを言ってたし。怖いよー。

でもこのマンガに出てくる三人の女の霊は「呪ってやる!」という恨みの気持ちは描写されておらず、自分が死んだことすら気づかず、ただ数良の後にズルズルついて行くだけの存在なんです。単なる恨みの感情より、こういう「愛だか怨念だかもうよくわからない強い執念」ってのが一番怖いと思うのです。
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月氷修羅

Category:山岸凉子

月氷修羅(げっぴょうしゅら)
1992年

笛吹き童子(プリンセスコミックス)』(秋田書店)
甕のぞきの色(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



不倫とは女が“別れ”を言うか言わないか
その間だけのことなのだ

朗子(さえこ)
正治と不倫を続けて4年になる。
妻と別れられない正治、彼と別れられない自分。お互いのエゴに気づきながらも不倫の泥沼から逃れられない朗子。しかしさまざまな出来事を経て、朗子はひとつの決断を下す。


不倫がテーマの話では妙に辛口な山岸先生の不倫もの。主人公の朗子28歳が見たり聞いたり考えたりするだけの地味めな話ですが、最後の決断が不倫ものの主人公の中ではかなりの英断ですよ。
不倫に苦しむ朗子は、の夫も不倫していることを知り、またその父にも女がいたことを聞かされる。夫の不倫を聞かなかったことにしたら実際に耳が聞こえなくなったビックリおばあちゃん…。お姉さんはどうして妹が不倫してることに気づいたんでしょうかね?

「ど どうするの まさか……離婚なんて」
「わたし浮気する」
「え?」
「…冗談よ。してやりたいけど。
でも離婚するなんて安易なこと…絶対しないわ。
妻なんてそう簡単に引き下がらないわよ。それはわかってるでしょうね 朗子」

(姉さん 知ってるのね……)

ここらへんを読んでて「なんで? 自分も浮気すればいいじゃん」「つか離婚すれば?」という感想を抱いてしまう私は独身。当事者にとってはそんな簡単な問題ではないであろうことはわかってますよ。
うーん、お姉さんの「引き下がらない」に具体的な計画はあるのかねぇ。なんかこの人、妹には強いこと言ってても結局夫には何もできなそうな…。あ、でもこういう大人しい奥様に限ってキレると恐ろしかったりするからなあ…。朗子姉(黒目がち)にはそんな印象を受けました。

姉さんのあの眼…
そうよね 姉さんを苦しめる女はわたしでもあるんだ!


自分と近い人(身内)が夫の不倫に苦しんでいる妻、自分は愛人側という構図は『死者の家』と同じですね。『死者の家』終盤の美佐と同じくズルズルと不倫の泥沼にはまっていた朗子ですが、ある日正治の妻が急に亡くなってしまいます。あら急展開。
ようやく結婚できる状況になった二人。しかし朗子は。

「わたしたち別れましょう」

朗子よく言った! 正治の手に「ハム」って書いてあっても前言撤回しちゃだめだよ!(←伊藤理佐『おいピータン!』のネタ)
それにしてもこの正治って男は腹立ちますねー。「長い間待たせた」とか「わからない君の言ってることが」とか「そうやって自分だけを愛していけばいい」とか! こんな奴が奥さんの生きている間に愛人の方を選べるわけないって。どうして女はこんな男に「一度に二人の女」なんていい思いさせちゃうんだ…。男なんて愛人や妻がどんなに苦しんでても所詮「俺ってモテてる」くらいにしか感じてないんだから…。
癪だから山岸先生には既婚女性の不倫ものも描いて欲しいなー。何の落ち度もない夫がいながら若い間男と不倫する主婦の話を是非。そんで間男と夫が何年も苦しむの。

不倫相手の奥さんが亡くなってそのまま後添え(←なんかやな言葉)になることを選んだパターンだと『貴船の道』があります。あっちはあっちでまあハッピーエンド。

死者の家

Category:山岸凉子

死者の家
1988年

奈落 タルタロス(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈9〉鬼子母神』(潮出版社)
に収録。



「奥さんに離婚の話してくれるの? 奥さんにすぐ話してくれる?」

美佐の母は夫の不倫で苦しめられ続けたまま、若くして病死した。
数年後、美佐は勤め先で出会った正志という男性と交際を始めるが…。


もういくつめかの不倫もの。
「ママの家系は代々不幸な結婚をする女性が出る」と生前の母に聞かされていた美佐。
父とその愛人を疎み家を出た美佐は、会社で出会った男性・正志と初めての恋をします。

ママ わたしすごく好きな人ができたの
お願い 見守っていてね


ルンルン気分で位牌に話しかける美佐。
しかし正志には実は妻と幼い娘がいたのだった!
問いつめられた正志は必死で「きみを騙すつもりはなかった」「女房とはとうにだめになってた」「妻とは別れるから」という、お約束の台詞を口に出します。山岸作品の不倫ものに出てくる男って嫌いだわー。
美佐は彼の奥さんと娘を昔の母と自分に重ねて苦しむものの、結局別れを切り出せずにお決まりのコースへと…。一度はさようならって言えてたのにね。

「本当に奥さんと別れてくれる?」
「ああ! きっとそうする」
知らなかった…! わたし ものすごく愚かな女だったんだ

ある晩、美佐は母が地獄にいる夢を見る…。

パパに苦しめられたママがどうして地獄にいるの
ママは天国にいなくちゃ ママは何も悪い事していないんだもの
わたしがしてるから? ママの娘のわたしがこんな事をしてるから?
ママと同じ立場の女性をわたしが苦しめているから
娘の罪でママは地獄にいるのね


ほんとに山岸作品の不倫ものって「山岸先生…過去になんかあったんですか?;」って聞きたくなってしまうものばかりだなぁ…。
このへんの「不倫する者と不倫される者の立場が入れ替わる(一人の女がどちらも経験する)」というネタは『貴船の道』でもやってましたね。あっちはハッピーエンドだったけど…。未婚なら愛人になり結婚すりゃ愛人作られる山岸不倫ものの女たちの明日はどっちだ。

美佐は「もうこんな生き方はしない。このままじゃ一生浮かばれない。きっと別れられる…」と思いながらも彼と別れることができないままズルズルと関係と続けちゃいます。
最初は初々しいカップルだった二人も、最後のページでは情事の後のベッドで「ねえいつ奥さんと別れてくれるの」というお約束な会話をする典型的な不倫カップルへと変貌を遂げてしまうのでした。
前半の読んでてたるいウキウキラブシーンは後半で叩き落とすための前フリだったんですね…。
からくりサーカス黒賀村編のラブコメ状態からのゾナハ病感染展開みたいな落とし方だ…。(←読んだことある人にしかわからない例えですいません)

ブルー・ロージス

Category:山岸凉子

ブルー・ロージス
1991年

自選作品集 ブルー・ロージス(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



「わたしぐらい役立たずの人間はいないわ。
気はきかないしグズだし なにをやってもドジだったのよ」

黎子(たみこ)
は男性と付き合ったことがないまま30歳になろうとするイラストレーター。
子供の頃に親からかけられた呪文のせいで自分に自信が持てずにいた黎子だが、ある時男性編集者の和久と出会ったことで、黎子の人生は少しずつ変わりはじめる。


私が山岸先生のマンガを読むようになったのは、母の本棚に山岸凉子(他24年組)の単行本が何冊かあったのがきっかけなのですが、何冊かあった単行本の中にこの『ブルー・ロージス』が入ってたんですね。
最初に読んだ時、私はまだ小学5年生くらいで、その時の感想は「主人公に彼氏ができて? 料理が上手くなって? …で、別れて終わり? 地味な話だなー」というかんじで、全然ピンときてませんでした。
でも20歳を過ぎた頃に読み返してみたら…すごい染みたんですよ。
子供時代、出来の良い妹(明子)と比べて親から褒められることがなかったせいで自分に自信の持てなかった黎子。大人になって初めての恋人にありのままの自分を認めてもらえて、愛情込めて褒められたことによって自分を認められるようになり…。

「安心して。黎子さんそんなにドジじゃないって。
もっともドジの黎子さんも可愛いと思うけど」


わかる! わかるよ今なら黎子の気持ちが! そう、人は褒めてもらえないと自信なんか持てないの! 子供の頃に与えられなかった「自信」を、大人になってからようやく与えられた黎子…。山岸先生の「救済系」(←勝手にこう呼んでいる)はいつもじーんとくるなぁ…。
和久さんと別れた後、彼に褒めてもらった料理を自信を持ってチャカチャカ作る最後のシーンなんか泣けます。

これはあの人から与えてもらったものだ……
どんな料理もおいしいと言って食べてくれるから
気がついたら自信をもって料理することができるようになっていたんだわ
そうか 明子のあの自信が子供の頃与えられたように
わたしは得そこなった自信をあの人に与えてもらったんだ


この話は「喪女黎子」「自信なし黎子」というふたつのテーマがあると思うんですけど、私は「自信なし黎子」の物語にすごいグッときちゃったので、和久さんが実はちょい二股だったとか、黎子が傷つきたくなくて目を背けていたとか、男女の恋愛沙汰がどうこうなるあたりはわりとどうでもよくなっちゃいました。でもまた数年後読んだら違う感想が出てくるのかも。
(この二人は結婚してないので「不倫」とは言いませんが、一応主人公が浮気されてるので「不倫」タグつけておきます↓)

それにしても「線の細い植物的な男性」のイラストが売りだった黎子が、男を知った後にはその絵が描けなくなった…というくだりは無駄に生々しい(笑)
星の素白き花束の…』の聡子さんの時も思ったけど、絵柄変わった後のイラストちゃんと売れてるんですかねー。心配。

蜃気楼

Category:山岸凉子

蜃気楼
1990年

パイド・パイパー(ユーコミックスデラックス)』(集英社)
パイド・パイパー(MF文庫)』(メディアファクトリー)
自選作品集 タイムスリップ(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
に収録。



若く美しい愛人を得るというのは やはり男なら1度は見る夢なのだ

昌彦
は結婚して5年目の妻・春枝と一人娘をもつ、ごく普通の会社員。
しかし昌彦には星子という愛人がいた。妻と愛人、どちらにも優しくバランスよく付き合っているつもりの昌彦だったが、その均衡は少しずつ破られていく…。


「不倫する男」がテーマになることが本当にやたらと多い山岸作品ですが、「不倫する男」の目線で描かれたお話は珍しいのではないでしょうか。
穏やかで優しい妻・春枝と安定した家庭をつくり、わがままで子供っぽい星子と男女の関係を楽しむ…タイプの違う二人の女を愛する充実感に満ちた生活を送る昌彦。
家族サービスの合間に愛人サービス、スケジュールを組んで嘘をついて仕事もして…と、えらくハードな昌彦の生活。私が男だったらこうまでして不倫したくはないですが本人が幸せならしょうがない。

このふたつの愛のうち どちらかが欠けても耐えられない
以前よりも仕事は順調だし 気力にも張りがある


昌彦は「今の僕には妻も星子も幸せにする自信がある」という『アリエスの乙女たち』の高志さまのような理想を掲げてますが、星子も春枝も昌彦が思うほど甘い女ではなかった。
昌彦の他に恋人をつくっていた星子はいきなり「自分がやられて厭なことは他人も厭なんだという事わかった?」と、昌彦に対して小学校の先生のお説教のようなことを言い出します。言える立場か!? やっぱり結婚してくれないことを恨んでたんでしょうか。慌てる昌彦。

星子には充分贅沢をさせている 仕事も割りのいい仕事を回している
睡眠時間をさいてまで できる限りの我が儘も聞いてやったじゃないか だからこそ!
だからこそ? い、いや違う 愛しているからだよな


その自分の愛の見返りを期待してるところがエゴなんだよ昌彦…。
スカッとするのは穏やかで貞淑で何も知らないと思われていた妻・春枝が探偵を雇って夫を監視してたところ。包容力のある心優しい女だと思って甘く見ていたな昌彦。
しかし不倫がバレた昌彦の謝罪の言葉もやっぱり無意識のエゴで固まっていて腹立ちますね。ラストの憔悴しきった顔を見るとちょっとザマミロという気分。

「すまない きみを…傷つけるつもりは…」
「傷つける? そういう言い方はやめてください。あなたは自分が傷つくのがいやなのよ。
あなたは自分のエゴが認められない 自分を悪者にしたくないのよね」


不倫していたからといって昌彦が「極悪非道な人間というわけではない、ごく普通の優しい男(ひと)」というところはリアルですね。実際はそんなもんだ。
「だからわたし わからなくなったの。男の人ってなに? 結婚ってなんなの?」
「不倫は男の専売特許」みたいな台詞だけど、山岸先生にはたまには既婚女性の不倫ものも描いてみてほしいです。山岸作品の中に既婚男性の不倫ものは20くらいあるけどその逆ってほぼ見たことないし。
ところで星子の家はなんで寝室の床にいきなりバスタブが埋め込んであるんだろう…。

メディア

Category:山岸凉子

メディア
1997年

押し入れ(AmieKC)』(講談社)
押し入れ(KCデラックス)』(講談社)※上の復刻版ですが、エッセイマンガ「マイブーム」はなぜか収録されてません。
に収録。



「日本の子殺しは 女が母親役にしがみついた時おこるのです」

有村ひとみはバイトに就職活動に忙しい短大2年生。
夫に不倫されている母親はひとみを溺愛し、ひたすら尽くそうとする。
そんな家から自立しようと努力するひとみだが、母親の溺愛が悲劇を招く。


すごく怖い話です。読後感の悪さはかなりのもの。
夫に捨てられた代わりに、娘にどこまでも執拗にすがりつく母親…。この母親の容姿が普通の中年太りのおばさんなのが逆に怖いのです。ひとみの夢の中で人面魚(シーマン!?)になってるシーンとか、山岸作品の中でも屈指の気持ち悪さ!

「お母さん あんたのためなら どんなことでも我慢できるんだから」

自分にベタベタとすがる母を正直疎ましく思いながらも、夫に裏切られた母に冷たくできないひとみ。「お弁当作ってあげる」を断りきれなかった時の暗い表情が印象的でした…。
この母親はお弁当作りも夫と離婚しないのも、ひとみのためとか言っておきながら結局すべて自分のエゴなんだよなぁ。
自分なりに自分の将来を模索し、ひそかに留学の計画を進めていたひとみですが、それが母にばれてしまいます。「2年で帰ってくる」というひとみの言葉に、泣く泣く留学を許してくれた母。
しかし出発の2日前…。

「ごめんね ごめんね。
お母さん ひとみに捨てられるの たえられないの
ごめんね」


血の涙を流す鬼のような顔が怖い!
一生懸命自分の将来を考えてたのに母親のエゴで殺されてしまうひとみが本当に可哀想…。
冒頭でメディアの話を聞いたひとみが「あたしなら我が子を殺さず心変わりした男のほうを殺すなあ」と言っていただけに悲しい。

ところで、母がひとみを刺してしまう場面の描き方はすごいと思います。刺す場面っていうか、刺すまでの経過が。
ひとみが留学してしまうことを知ってすぐに殺してしまう…ではなくて、ひとみの留学を許して、もうあと2日で出発しますってとこで「梅干しなんか持っていかないの?」とか言っておいて次のシーンでいきなり刺すっていう。この緩急のつけ方、山岸先生というお人の恐ろしさを感じました。
『舞姫』の千花ちゃんも、ああなってしまう寸前のシーンではむしろちょっと回復しかけてるように見えたじゃないですか。(まさかあの後ああなるとは思わなかった!)
「死」を実行することを決めた肝心の場面が描かれてない、最悪の事態が起きるまでの間に何があったのか?何を考えていたのか?ってのがよくわからないところが現実っぽくて怖く感じるのだと思います。ほんと山岸先生は死と恐怖を描くのが上手いよ…。

鬼子母神

Category:山岸凉子

鬼子母神
1993年

黒鳥 ブラック・スワン(白泉社レディースコミック)』(白泉社)
黒鳥 ブラック・スワン(白泉社文庫)』(白泉社)
山岸凉子スペシャルセレクション〈9〉鬼子母神』(潮出版社)
に収録。



愛という名で飲み込まれた子供は 自分の真の姿にいつ気がつくのだろうか

ごく平凡な家庭に生まれた瑞季。しかし瑞季は「悪魔」で、双子のは「王子様」だった。
さらに、は「菩薩様」で、は「表札」だった。


この話はすごい好きです! お気に入り山岸作品のトップ10に入る。
生まれながらの「悪魔」である瑞季が「菩薩様」に叱られる「王子様」の汗を袋に集めたり、「表札」がゴルフに行ったりと、一見シュールなギャグのような絵面ですが、描かれるのはそれは歪んだ家庭。
瑞季の目だけに見えるメルヒェンな家族像を通して描かれる母と兄(名前出てこない)、母と父、そして母と瑞季…。この描き方はほんとにすごい。

「菩薩様」に溺愛される兄はピッカピカの「王子様」。「菩薩様の裏の顔」に睨まれる瑞季は「悪魔」。兄との愛され方の違いに少々グレてしまった瑞季ですが、ママの王子様であろうと過剰に頑張る兄より絶対マシ。この作品で一番可哀想なのは多分お兄さんだなあ…。

「気を抜いてはだめよ。良い大学へ行けないとパパのように苦労しますよ」
「ちょっと調子が悪かっただけだよ」
「わかってるわ。これがお兄ちゃんの本来の力じゃないことぐらい」

「お兄ちゃんは几帳面なのに あんたは女の子のくせにだらしなくて ママ恥ずかしいわ」


テーマのわりにこの作品がスッキリ読めるのは、主人公・瑞季が最後まで母と兄に飲まれなかったからでしょう。
家ではダメ人間のように言われてても、学校では面白い奴として人気者だし、兄と比べて学力はないけど勉強はそこそこ要領よくて友達も多くてお笑い担当! この娘のおかげでこの作品は鬱々とした雰囲気にならずに済んでます。
途中から母の叱責にも開き直りだして、不良化しちゃったりして良いキャラ。山岸作品の主人公の中でもかなり好きです。普通にいい子なのに母と兄の瑞季の扱いひどすぎ。
母と兄に女としての自信をさんざん折られて可哀想でしたが、モヤシくん(名前出てこない)と出会ってその呪縛からも解放されたし、瑞季はほんとうまく家から出られたと思います。早めに家に見切りつけてよかったね!

不倫する夫に失望した母が、夫に代わって期待したものは息子でした。
母に溺愛され、甘やかされ、尽くされた「王子様」は、途中までは順風満帆の優等生でしたが、偏差値高すぎる高校に入った途端沈没し、家庭内暴力と酒に走っています。
一方、家を出て舞台女優として活躍する瑞季は、大人になった今ようやく気づくのでした。

夫に失望した母には それにかわるものが必要だった
それが兄だったのだ
失望が大きければ大きい分だけ 兄に対する期待は膨らんだに違いない
それゆえ兄は生まれながらにして王子だったのだ
弱さを認められず 負けることを許されない立派な王子(おとこ)!


悪魔も王子様も、母の目に映った姿だった。瑞季は最初から「悪魔」として見られていたおかげで、母の裏の顔に気づくことができた。
「王子様」として母の期待に応え続けて壊れた兄。酒浸りの王子様にまだ尽くす母…。やっぱり兄が一番可哀想だなあ…。自分より遥かにまともな生活をしてる瑞季を「不肖の妹」呼ばわりするあたり、未だに王子様健在だし。

瑞季の父への批判は、山岸作品に何度となく出てくる「男」への苦言。
妻に自分の母親がわりをおしかぶせ
永遠に子供のままで父親になれない姿がここにある


ここに出てくる「妻とセックスなんて近親相姦のようでゾッとする」と言った「某作家」が誰だかわかんないんですが。
瑞季はあんな歪んだ家庭の中にあっても唯一、いろいろな真実に気づいて自立した大人になれたんだなあと思うと、ほんとに瑞季よかったねとしか。しかし母と兄は将来どうなるのかな…。共依存してるよな…。

貴船の道

Category:山岸凉子

貴船の道(きぶねのみち)
1993年

黒鳥 ブラック・スワン(白泉社レディースコミック)』(白泉社)
黒鳥 ブラック・スワン(白泉社文庫)』(白泉社)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



いや! いやだ! あの女だけはいやだ! いやだ!

不倫相手・和茂の妻が病死し、晴れて結婚することができた真紀子
慣れない主婦業や、元妻の残した二人の子供とギクシャクするなかで、和茂にはまた別の愛人の気配が。元妻・晴美の苦しみを追体験する真紀子。
そして真紀子は晴美の幽霊を見るようになる。


山岸作品の不倫ものには珍しく、不倫相手の後添え(この言葉も古くさいですね)になれた女性のケース。同じく不倫ものの『月氷修羅』の朗子とはちょうど逆の選択をしています。朗子があのラストで結婚を受け入れていたらこんなかんじになっていたのかも…という見方もできるパラレル的な面もある作品。

「晴美さんより先に会っていれば和茂さんと結ばれたのはわたしだった」と思っていた元愛人・真紀子も、結婚してみれば再び和茂が別の女と会ってるかのようなそぶりに、今度は晴美と同じく「妻」として悩まされます。「二日続けて着たのにワイシャツの衿が汚れてない」とか、不倫経験者にしかわかんねーよ…。

これは天罰なのか わたしが以前やったことをやり返される
そして和茂さんは前と同じことを平気で繰り返すの!?


全体的に大人っぽい「男女の業」というテーマの中にも山岸先生らしい恐怖あり。うしろ向きのまま近づいてくる元妻とか、「チューリップの芽かと思ったら人の指だった」はかなり怖いです。

そうか 和茂さんは母親になってしまった妻には興味はなくなるのね
よく出てくるなー、この手の男。

“女の業”とは男の業によって呼び活けられるのだ
妻だけではあきたらない“男の業”によって
では古来から言うところの業の深いのは 女ではなく男ではないのか
いや そうではない 業とは男も女も等しく持っているものなのだ


結局和茂は本当に浮気してたのか、真紀子の思い過ごしだったのかはわからないのですが、最終的に破滅しなかったラストは不倫ものとしてはけっこう珍しい。
最後では草太くんも真紀子に懐いてくれたし、真紀子は山岸作品不倫界の勝者といえましょう。

月の絹

Category:山岸凉子

月の絹
1987年

パエトーン(あすかコミックス)』(角川書店)
に収録。



春は弥生の佐保姫。十代前半。
夏は夜空の夕星(ゆうづつ)姫。彼氏あり。
秋は紅葉の竜田姫。不倫真っ最中。
冬は吹雪の雪女郎こと打田姫。お墓コンサルタント。

春夏秋冬のお姫様姉妹たちがひたすらダベリング(死語)するだけのマンガ。こういうダラダラした作品もわりと好き。
日本髪・着物のお姫様たちがなぜか途中で現代風に変身したりします。
こんななごやかなマンガにも「不倫してる女性」が出てくるあたり、山岸作品ですね…。

次から次へと変わるお姫様たちの話題。
カラーコーディネイトに手作りお弁当、メイク話からお墓アドバイスまで。
夕星姫の作るヘルシー弁当が美味しそう!

それにしても台詞に時代を感じる…。
「不倫にいじめときてはあまりに流行に乗りすぎよ」
「ほら 今流行りのモノトーンファッション」「ネコもシャクシも黒・黒・黒じゃん」
「昨今の健康食品ブームに乗って」
モノトーンファッションブームっていつだったっけ…。(遠い目)

「ところであたし達は何者なの?」
「たんにおしゃべりしてる女なんじゃない」

コスモス

Category:山岸凉子

コスモス
1987年

奈落 タルタロス(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 タイムスリップ(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
パイド・パイパー(MF文庫)』(メディアファクトリー)
に収録。



小学生の裕太は喘息持ち。
「胸の中に風が吹きだす」とママはいつも心配そうに裕太を看病してくれる。
優しいママがパパの会社に電話をかけると、パパが帰ってきて車で病院に連れて行ってくれる…。


怖えー!
読み終えたあと、背中がゾクッとなりましたよ…!
こういう恐怖が描ける山岸先生を改めて尊敬。

裕太が喘息を起こすと、普段は顔を合わさないパパをママが呼んで来てくれる。
ある日裕太はクラスメイトに「喘息って気のせいだからその気になれば治るらしいよ」と言われます。
気のせいなもんか! こんなに苦しいのに
※ここ伏線です。

もう、ママの呪文のような台詞が恐ろしくてたまりません。

「嫌ねえこの風。裕太ちゃん 胸大丈夫?

ママが不安そうにこっちを見てる
風の音とママの顔とで僕はドキドキしてそして…

裕太が発作を起こすと

「裕太ちゃん しっかりね。今パパに来てもらうからね。
あなた! 早く戻ってきてください。
裕太が大変なんです」


僕は苦しい時しかパパに会った事がないみたい

また、ある冬の日。

「もうすぐお正月ね。ママ…心配だわ。
だってお正月は病院がどこもお休みになるのよ。そんな時に裕太ちゃんの胸がまた…

怖い、ママの目が怖い…!
裕太は一生懸命不安を押し殺しますが、また発作を起こしてしまいます。
ママはまたパパの会社に電話します。

「M物産でしょうか。お忙しいところおそれいりますが…。
なぜですの少しくらいのお時間がどうしてとれませんの年末だからといってる場合ではないでしょう裕太が苦しんでるんですよわたし一人じゃあの子を病院にだってつれてゆけませんわ

こんな粘着質な奥さん、私でも家に帰りたくない。

裕太視点で話が進むので、大人の会話がちょっとしか出てこないですが、どうやらパパは不倫(山岸作品によくあるジャンルのひとつ)か何かをしてて家にほとんど帰って来ないようです。
「まだ向こうと手が切れてないのかねえ」
「お母さんやめてよその話は!」

そして終盤、ママがまたあの一言を…。

どうしようママ心配だわ。
そろそろまた裕太ちゃんの胸の風が…」

この1ページ使ったシーンのママの白目が怖すぎる!
裕太は自分の胸の音に耳をかたむける…。どんどん苦しくなってくる…。

「ほらごらんなさい。やっぱり苦しいんでしょ。
ママの思ったとおりだわ。季節の変わり目がいけないのよ。静かに横になってなさいね。
ひどくなったらパパに来てもらいましょうね。
裕太ちゃんが可愛いパパはすぐとんでくるわ


ここのラスト4ページ、特に裕太のモノローグとママの台詞が交互になってるとこのスピード感が最高にスリリングで怖いです。
ママの「また裕太ちゃんの胸が」「パパを呼ぶわ」の繰り返しがとにかく怖い!
こんなママを「優しいママ」と信じて疑わない裕太が本当に可哀想になります。
でもこのママも自覚がないまま呪詛を吐いてるんだったらそれはそれで悲劇だ…。

「あなた! ご自分の息子じゃありませんか。
あの子が苦しんでいるというのに! あなたはそれでも人の子の親なの」


パパは僕が苦しい時だけやって来る

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.

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