裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

メタモルフォシス伝

Category:山岸凉子

メタモルフォシス伝
1976年

メタモルフォシス伝〈1〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
メタモルフォシス伝〈2〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子全集〈22〉メタモルフォシス伝(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
メタモルフォシス伝(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈14〉メタモルフォシス伝』(潮出版社)
に収録。



もうれつ受験校にあらわれた おかしなあいつ
蘇我要の行くところ 風が起これば雲を呼び 花の嵐がきにかかる


都内の某受験校にある日転校してきた不思議な少年・蘇我要
毎日勉強勉強でピリピリしている学校で、それぞれに問題を抱える久美新田小山大田原
蘇我はその不思議な力で、彼らを、学校を、少しずつ変えていく。
全国の高校(ハイスクール)の受験生よ! 転身(メタモルフォシス)せよ!!


「歳をとりたいとは思わないけれど 試験や宿題のない歳になりたいなあ」
「答を求められたなら それに答えるよう万全を期さなくちゃならないのさ」
「入ってから考えます。いまはただ勉強するのみです」
「こっちは花よめの持参金がわりに大学いくんじゃないんだからな」
「ねえあなた こわくないの いまこの2時間にも他の連中はせっせと勉強してんのよ」

不思議な能力を持ったあっかるい謎の少年・蘇我要を狂言回しに、日本の受験のあり方や学校教育制度に対して疑問を呈する、短気連載作品。
問題提起の内容は昔から多くの人が抱いているのとほぼ同じだと思うので割愛するとして、(←私自身、幼少時に日本の学校教育に疑問を抱いて小学校退学したりしてるので、語りだすとものそい長くなってしまうので…)
ストーリーの主軸は、厳しい受験・テスト・宿題に心の底では疑問を抱きつつも、目の前の受験を突破するために朝も夜も勉強せざるを得ない登場人物たちの問題を蘇我が解決する、とかなんかそんなかんじです。

・自他ともに認める劣等生だけど、人間的感覚は多分一番まともな久美(本来文系なのに親の期待に反発できず理系を選択)。
・クールな優等生だけど家庭に問題を抱える新田(テストのあり方がおかしいのに気づきつつ好成績を収めるバランス派?)。
・本当は音楽が好きなのに、周りの呪文に流されるままにぼんやりT大受験を目標に据える小山(しっかりしろ)。
・典型的な学歴至上主義で嫌われ者のガリ勉眼鏡、大田原(しぬな)。
・新田と同じく、割り切って自分の目標のために勉強に励む紅子(唯一、最初と最後でそんなに変化なし)。

冒頭ではみんなこんななので、読んでてモヤモヤ。でも蘇我くんの活躍で徐々にみんなも読者もスッキリしてきます。
私が感情移入するキャラはやっぱり劣等生の久美(クネ)かな。
他の山岸作品にもよく出てくる気弱で自信のない性格で、元々文系なのに親に反抗できず苦手な理系を選択し続け苦しむ少女。
文学や美術や音楽や美しい風景なんかに感動する豊かな感受性を持っているのに、自分の意見をハッキリと言えず、周りに流され、よりによって自分の長所を全然生かせない医学部に進学すべく頑張っちゃう(でも劣等生)という、すごい辛そう&もったいない子だったのですが、蘇我くんのおかげで変わります。がんばれ。
勇気を出して数学・物理の講習を受けなかった久美が、学校を散歩して蘇我と会話するシーンが好きです。

こうしてひとまわりしてみると 学校もいいところなのねえ
あのドングリの幹の影もステキだし 花壇だって それに…
今までぜんぜん気づかなかった (中略) なんだか泣けてきちゃう
あたしってバカみたい こんなことに気がつく心のゆとりもなかったなんて
あたしって学校には勉強以外 なあんにもないって思ってた
今 あたし16歳… もうすぐ17歳になっちまう
二度とこない16歳に 勉強だけしか見つめてなかったなんて! あたし泣けちゃう


「見てごらん あの暗くて暑い教室でみんなのやってること
きっと きみの今の気持ちに気がついていない人もいっぱいいるんだよ
もしくはわかってても 頭の中だけで……かな
今のきみのように泣けるほどそのことに気がついてる人は少ないよ きっと
ずっと大人になってから くやしい思いをしながら気がつくんだ
今気がついたきみはしあわせだね


「不思議ねえ あなたって… ずいぶん人の心を理解してくれるのねえ 乙女の感傷って言っただけなのに」
「こういうことを理解することを教室では教えてくれないよね
あそこでは点数をより多く取る人間が頭がよくて値打ちがあるんだ
それが間違ってるとは言いきらないけど ただ 人間 それだけじゃないよね」

「ええ!」

でもこの後、久美はそのことを紅子に話したら逃避とか言われます。
この紅子って子が何気にくせ者で! この作品の中で唯一あんまり成長のないキャラなのですが、変わるほど元々問題のあるキャラじゃないといえばそうなんですが、なんかこう、実際の学生の中にいそうな絶妙にリアルなキャラクターなんですよね。
目標のために勉強は頑張るし、成績も良い。受験に意味があるのかはわからない。今はただ、目の前の受験を突破するだけ。
受験への疑問や、ましてやそれを変えるなんて大層なことは未来の人々にお任せします。
今この受験戦争まっただ中に疑問を呈するなんてのは逃避・敗北でしかないわ。という、こういった論調でいつも久美の発言や久美が気づいた感動を悪気なく否定したりします。
久美も、クールかつ理路整然とした紅子の言い分に上手く反論できずに口ごもってしまう。
だがそもそも久美と紅子は真に意思の疎通ができているのか? このモヤモヤするかんじ、実際に人と話しててもよくあるなぁ…。
個人的にこの作品で一番モヤモヤするのは久美と紅子の会話のシーンです。こいつらなんで親友なんだろう…。
まあとにかく、久美がんばったよね。
私 医学部へ行くのとは違う形で親孝行しますから…

あとは小山が多少しっかりしたり、大田原の勉強ノイローゼを蘇我が何とかしたり。新田の心の闇を何とかしたり(なげやり)。
蘇我の暗躍のおかげで新田がお兄さんに少し優しくなるとこ好きです。あのお兄さんそんなに悪くないよね。

蘇我くんのもうれつ受験校改造計画、最後のシメは学校祭の麻雀同好会設立。
最も難関と思われた教師陣の懐柔を一日で完了するとは…。蘇我、おそろしい子!

「ぼくはこれからもずーっと きみたちといっしょだよ 一生」

タイムスリップ

Category:山岸凉子

タイムスリップ
1993年

自選作品集 タイムスリップ(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
ゆうれい談(MF文庫)』(メディアファクトリー)
に収録。



世の中 摩訶不思議な話というのは結構あるものです

山岸先生の実際の体験や、周りから聞いた「時間に関する不思議な話」をバカになりきって話す実話系の作品。
面白かった! こういう不思議な話大好きなんです。幽霊ものより超常現象っぽい話のが好き。

最初の話は「比叡山を車で下る時、何度も同じ場所に出てしまう」というお話。これは山岸先生の体験なのですが、驚くことにそれをアシさんに話した時、アシさんの一人が
「わたしも比叡山で同じ目に合った!」
タクシーで山道を下っているはずなのに何度も何度も見る景色。同じお地蔵様。うしろの席で不思議がっていると、タクシーの運転手さんが一言。
「いやあ! この辺はこんなことがよくあるんですよ」
地元では有名!? すごいや比叡山。さすが志々雄様のアジト。(←関係ない)
てことは地元の運転手さんはみんな、比叡山に登る時は時間の流れのおかしい所につかまってしまうことを覚悟して行くんですね(笑)すごいや。これ比叡山の七不思議に加えた方がいいんじゃないでしょうか。比叡山行ってみたい…!

山岸先生がまたそれを別の人・Yさんに話すと、
「わたしもそれと同じような経験しました」
こうしてつながっていく不思議体験の輪…。
東北地方を旅行中、速度と時間からいって目的地についてもいいはずなのに、なぜか終わらない真っ暗な一本道(怖い)。そんな時ふと見つけた小さな木造の建物(怖い怖い)。裸電球が灯っているのに誰も出てこない(怖い)。
しかも驚くことに、松島トモ子も自宅マンション付近で迷った時、同じような体験をしたらしいですよ。東北地方と東京で同じような無人の木造の建物。怖いって!
きっとその建物は異次元に迷い込んでしまった人を待ち受ける建物なんですよ…。管理人はこの世の者じゃないんですよきっと…。こっちはできるだけ行きたくないな…。

ここで山岸先生が抜粋した『世界不思議百科』は私も読んだことあります。けっこう面白かった。
博物学者のサンダーソン博士はアズエー湖の近くで道に迷ってしまった。歩き疲れてふと気がつくと、なぜか15世紀のパリにいた。
「15世紀のパリだ」ということは博士も、一緒にいた奥様も、なぜか直感で思ったらしいです。こ、これは怖い。下手したら帰ってこれなそう。
そしてやっぱり訳知り顔の地元民。比叡山付近のタクシー運転手のように、地元の人たちの間では日々「坊や、アズエー湖の近くはたまに500年前のパリになるから気をつけなさい」「はーい、いってきます」みたいな日常会話が繰り広げられてるんでしょうか(笑)
きっと「現在のアズエー湖付近」と「15世紀のパリ」は何らかの理由でリンクがはられてるんですよ。時間や距離など意に介さないのが超常現象。あの世は過去と現在と未来が同時に存在するらしいし(by白眼子さま)。

これらの話のすごいところは、同じような体験を複数の人がしているというところですね。
比叡山は山岸先生とアシさん。木造の建物はYさんと松島トモ子。15世紀のパリはサンダーソン博士と奥さん(側にいた助手さんにはパリは見えてなかったらしい)。
この世にはそんな不思議な場所がきっとたくさんあるんですね…。私も一生のうち一度はそんな不思議体験できるのかしら。煙草に火をつければ解けるらしいし、私も一度くらいは狐に化かされてみたいものです。本気です。でも幽霊見てみたいって言う人に限って霊感さっぱりなんだよね…。

幻想曲

Category:山岸凉子

幻想曲
1977年

妖精王の帰還』(新書館)
山岸凉子作品集〈8〉傑作集2 ティンカー・ベル』(白泉社)
山岸凉子全集〈24〉パニュキス(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈10〉ヤマトタケル』(潮出版社)
に収録。



幻想的な短編いっぱいのオムニバスです。


虹(プレリュード)

一切台詞のない絵のみの短編。
7人の女神が次々に太陽の神とキスして落下(落花!)するとやがて虹となる。
山岸先生の描くギリシャっぽい衣装って好き!
この女神様たちはアメリカの空の上では一人減るはず(笑)

分身(ダブル)

「見てはいけない」とされている黒い森の池。
ある日、池を見てしまった少年は池に映った自分に引きずり込まれ、溺れて死んでしまう…。
学校の怪談っぽい、ちょっと怖い話です。
池に引きずり込まれて終わりじゃなくて、少年の葬式が挙げられるとこまで描かれてるのがなんか逆に怖い。

転身(メタモルフォーゼ)

これも台詞なし。
変身能力を持った奇術師の女を観客の男が口説き落とし、そのまま熱い夜になるかと思えば、不思議な女は服どころか皮まで脱いじゃって骨だけになって崩れ落ちてしまいます。
このオムニバスの中ではコミカルで面白いです。
男は女を大金積んでものにしようとしてたけど、骨となって崩れた女をちゃんと埋葬して泣いてあげるあたり、けっこういい奴っぽいぞ。

堕天使(フォールン・エンジェル)

これは怖い…。インパクト系恐怖っていうか。
真夜中、眠っていた女の子が目を覚ますと、窓辺に背を向けた天使様がいる。
「ねえこちらをむいて」と女の子が天使を振り向かせると…。
「天使さまが…… 気の…気の狂った天使さまが」

妖精(エルフ)

村でただ一人の看護婦さんが謎の男の妻の出産を手伝い、こっそり棚にあった薬を右目に塗った。
数年後、市場でたまたま男を見かけて声をかけた看護婦はなぜか薬を塗ったことがばれ、右目をつぶされてしまう。
看護婦が勝手に使った「妖精が見えるようになる薬」はちょっとロマンチック。童話に出てきそう。しかしこの妖精さんはなんだか慇懃無礼。奥さんと赤ちゃんを助けてもらっといて「片目にだけぬったので助かりましたね」はひどくないですか。もう少し「私だって辛いんですよ」的雰囲気出そうよ。

月(フィナーレ)

「空がちょっとさびしいわね」
星のない夜。女の子が空の月と湖に映る月をシンバルのようにパシャーンと打ち鳴らすと、夜空は一面星空に…。おしまい。
アニメのコジコジでもあったなぁ、こういう話。力のあるちっちゃい子かっこいい。

笛吹き童子

Category:山岸凉子

笛吹き童子
1986年

笛吹き童子(プリンセスコミックス)』(秋田書店)
自選作品集 夜叉御前(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈2〉汐の声』(潮出版社)
に収録。



笛にまつわる短編二本立て。


第1話「石笛」

山梨のとある旧家。亡くなった祖父の葬式にやって来た親戚は、宝の山(遺品)を漁りに来たハイエナばかり…。
残された祖母は曾孫である美沙ちゃんに倉の鍵を渡し、「石笛(いわぶえ)」という古い笛を渡します。おばあちゃんはボケちゃてますが、死者を悼むことすらしない金の亡者どもを許しはしません。生き霊となって美沙ちゃんに妖しげな笛を吹かせます。
「吹いてごらん! 美沙ちゃん」の顔が怖い!
少女が吹いた石笛によって、死者の屍は起きあがり地割れは起こり、腹黒い親戚達は全員家ごと地割れに飲み込まれます。BGMは筋肉少女帯の「ノゾミ・カナエ・タマエ」でお願いします。
ていうかおばあちゃん…美沙ちゃんの身にもなっておやりよ…。これおばあちゃん(本体)と倉にいた美沙ちゃんは助かってるんですかね?


第2話「笛吹き童子」

今度はいきなり平安時代です。
雅楽頭の総領であるはずの直行。しかし彼はとんでもなく楽器の才能がありませんでした…。
「楽器を弾く才能はなくても、そなたは壊れた楽器を丁寧に修復する。それは楽器を上手く弾くのと同じくらい立派なことですよ。でもうちは雅楽頭ですからねえ」というお母様のフォローが全然フォローになってません! もう楽器修復職人になればいいじゃん…。
楽器の道を諦めて2年経ったある夜、大工をやってた直行は「切り口ヶ原の笛の怪」こと笛吹き童子から壊れた笛を預かります。
その笛を完璧に直した時…、何ということでしょう(加藤みどりの声で)、直行に奇跡が…! こっちはハッピーエンド。よかったね。
マンガとか小説に出てくる笛や琴や三味線の「妙なる音色」とか「妙音」とか想像するのが好きです。きっとものすごく良い音なんだろうなーって。

ゆうれい談

Category:山岸凉子

ゆうれい談
1973年

ゆうれい談(セブンコミックス)』(小学館)
山岸凉子全集〈17〉ゆうれい談(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
ゆうれい談(MF文庫)』(メディアファクトリー)
に収録。



山岸先生がマンガ家仲間から聞いた「幽霊談」一挙公開。
「手ぬぐいを巻いた幽霊」「柳の精霊に恋された姉」「幽霊に脚を引っ張られて膝がはずれた少女」「窓を叩き続ける左手」…。
実際にあった怖い話、それと私の好きな「不思議で奇妙な話」もちゃんと入ってて嬉しいです。
やっぱり「怖い話」は怖い! 特に「石垣の上を走る少年」の話が絵面的に怖いです。「国分寺の石垣の道」だそうですが、まだあるのかなー。怖いもん見たさで行ってみたい。
「大島弓子が予知夢を見る」という話はなぜか納得してしまいました(何となく大島先生は予知夢見そうなイメージある)。

話と関係ないですが、歌いながらマンガを描くシーンで「バビル2世の主題歌を歌うアシさん」が「年をくっているのにナツマンではない」と書かれているのにびっくりしましたよ。さすが70年代。貸本屋も出てくるし。
この頃は山岸先生の絵もまだ線が太くて若干コミカルで、後の鬼気迫る恐怖絵ではないのがありがたいです。続編の『読者からのゆうれい談』は線が細くてだいぶ怖い…。

しかしささやななえ(現:ささやななえこ)の「おにぎりの中身を当てる能力」は「羨ましい!」の一言。こういう特殊能力欲しいなぁ。

雨の訪問者

Category:山岸凉子

雨の訪問者
1979年

ハーピー(サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子作品集〈11〉傑作集5 篭の中の鳥』(白泉社)
山岸凉子全集〈24〉パニュキス(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
白眼子(希望コミックス)』(潮出版社)
イシス(潮漫画文庫)』(潮出版社)
に収録。



独身貴族の久仁子のアパートに、ある日突然ベルと名乗る小さな女の子が現れた。
まるで昔から一緒に暮らしていたかのように親しげに振る舞うベルを、久仁子は不思議に思うが…。


山岸作品の中でも数少ない、最初から最後までほのぼの系のお話。恐怖ものだらけの単行本に収録されてたりすると清涼剤的役割をする作品です(笑)。
山岸先生の描く細かい生活シーンが妙に好きなんです。ストロベリージャムの入ってるスコッチパイとか四角い目玉焼きとか!

お花屋さんで買ったきれいな薔薇を飾って、好きなお料理を作って食べたあとにゆっくり本を読む…という羨ましい暮らしをしている独り者の久仁子さん。
そんな静かな生活も、いきなり現れた女の子・ベルにぶち壊されます。

「あの ベルちゃん 一体あなたどこから」
「いやだあ おばちゃん。
あたしずっといっしょに住んでいたじゃないの」


「あの子頭がおかしいのとちがうかしら」とか思いつつもベルのハンバーグだけお子さまランチっぽく仕上げてあげる久仁子さんはいい人。
最後の「そういうことだったの!」にはいや、どういうことだよ!とツッコミ入れましたw
久仁子さんには未来予見の能力でもあるんでしょうか。

顔の石

Category:山岸凉子

顔の石
1991年

牧神の午後』(朝日ソノラマ)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世の長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



30の大台に乗った妙子は「42の再婚のオジンでしかも中2のコブつき」と結婚した。
結婚相手の平山の娘・千愛(ちえ)は明るく素直でしっかりしたいい子で、妙子のことを「ママ」と呼んでくれる。
順調な結婚生活のように思えたが、平山家では不思議な現象が起こるようになる。


山岸先生のポルターガイストもの。
揺れるコップ。部屋の物音。散る花。飛ぶ座布団。
普通にカレー食べてる千愛ちゃんの横で座布団がプカプカ浮いてる1コマはなんかシュールです。
テーマのわりには描き方が怖くないのがありがたい作品。
妙子の夢に出てきた真っ赤な石炭ストーブと白無垢の花嫁は何の象徴?

「お父さん お母さんに約束したじゃない
他の誰とも結婚しないって!!」


千愛ちゃんが「お父さん心当たりない?」とか「お母さん怒ってる」とか言ってたのに、平山パパも鈍いですね。

「わたし…良い子で成績のいい千愛ちゃんを望んでいるのじゃないのよ。
それに千愛ちゃんのお母さんの代わりになれるなんてうぬぼれてもいないわ。
だけど 千愛ちゃんとはお互い思っていることをズケズケいえる
親友のようになりたいと思ってるの」


最後は妙子・千愛二人のお料理シーンというハッピーエンド。よかったー。
こういう、奇妙な出来事が起こりつつも悲惨な事件につながらない山岸作品って珍しいかも?
ポルターガイストは思春期の子供が起こすことが多いというのは有名ですが、「その家の霊が子供のエネルギーを利用する」という説は初めて知りました。

そういえばタイトルの「顔の石」の意味が謎です。検索しても「変な顔の石見つけた」みたいな記事ばかり引っかかるのです。

※タイトルについて追記(2010.8.23)
『山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉』の創作秘話より

予定していたストーリーと全然違う内容になったので、
中身とタイトルがまーったく関係なくなってしまいました。

あ、そうなんだ。

二日月

Category:山岸凉子

二日月(ふつかづき)
1990年

牧神の午後』(朝日ソノラマ)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



中学3年生になったえりは転校生の菊池という女子と隣の席になるが、菊池は何かというと自分の「超能力」や「予言」を誇示する。


超能力オタクの困ったちゃんと普通の女子の恋愛バトルというかんじでしょうか。

「暗い・ハッキリしない・鈍くさい」と言われていた菊池ですが、ある日、「スプーンが曲げられる」ということでクラスで有名になります。
最近えりといいかんじになってる伊達くんを好きな菊池は、自分の唯一のとりえ・超能力で伊達くんの気を引こうと頑張ります。
以下、菊池(自称巫女)の超能力発言。
「あたし オーラも見れるのよ。この中でいいオーラを出しているのは伊達くん。金色なの」
「みんなも誰かを呪いたかったらいってね。わたしのはよくきくから
「あのね 伊達くんね こんどの大会で怪我するわ」※伊達くんは陸上部
「特にあなたがそばに寄ると伊達くんに悪影響を及ぼすの」
「あなた達二人は最悪の相性なの」

自分と伊達くんの間に割り込もうとする菊池の不愉快な予言に、えりは当然怒ります。
嫌味にとるなですって!! ハッキリ悪意じゃないのよ!!
またこの菊池も決して堂々とアピールするわけじゃなく、「私はあなたの役に立てると思うから…」みたいなハッキリしないラブレターを出したりする、微妙な厄介な奴なんですよね。
「美人じゃないし特に魅力もないのに怪しい超能力にだけ妙に自信を持つ地味めの女子が彼氏に近づこうとする」って、「美人だけど意地悪な女子がライバル」とかよりよっぽどリアルで嫌です。

結局、不安ながらも「菊池さんの言うことなんか信じない!」を貫いたえりが勝ってめでたしなわけですが、中学生のくせにいやに論理的な伊達くんの言葉が菊池さんのアイデンティティをバッサリ斬ります。

「菊池さんは気の毒な人だと思う。
菊池さんはせっかくのパワーをマイナスの方へ方へと使っているんだもの」


「スプーンを曲げるという力は
人間のパワーの底知れなさを証明しているとは思う。
だけどそれがスプーンではだめなんだ。
その力を僕のように走ることのイメージに使ったり
もしくは物を創造するエネルギーやインスピレーションに
転換できなくては何の意味もないんだ」


と語る伊達くん。イメージコントロールで優勝した男。

さらに伊達くんは「超能力や霊的な力に魅かれるのは逃避的な人に多いと思う」という、各方面から反感買いそうな発言をしちまいます。いや私も思ってたけどもさ…!

えりや伊達くんは、悪い予言や占いにも逆らって現実の問題を解決していける人(最後までマイナスイメージを口に出さなかったえりちゃんは偉い)。
菊池さんは、生きにくい人生を霊的なものに頼って自分なりにしのいでいかなきゃならない人。
なんかぶっちゃけ菊池の気持ちの方がわかるなぁ…。

「考えようによっちゃ 普通に健康的で楽しく暮らせる力は
もうそれだけで超能力なのかも」
その「普通」ができない人が多分いっぱいいるんだと思うよ…。
よくこういう難しいテーマをマンガにできるなぁ、山岸先生ってば。
あ、「2月3日の節分より前の早生まれは前の年の干支に入る」というのは初めて知りました。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.