裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

奈落 タルタロス

Category:山岸凉子

奈落 タルタロス
1988年

奈落 タルタロス(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション8 二日月』(潮出版社)
に収録。



姉のデルフィーヌは生まれながらの勝者です
わたしは敗者としてこの世に生を享けました


18歳のエブリーヌには2歳上の姉・デルフィーヌがいる。
瓜二つの二人だが、才能ある女優であるデルフィーヌに比べ、エブリーヌは常に「人生の敗者」だった。
何をやっても姉に勝てないエブリーヌは、いつしかデルフィーヌの真似ばかりするようになっていった。やがてエブリーヌも女優を目指すが…。


山岸作品によくある「姉妹の確執もの」といえば主に
【美人な姉(妹)とブスな妹(姉)】(常世長鳴鳥黒のヘレネー・ハトシェプスト)タイプ
【優秀な姉と美人だが出来の悪い妹】(木花佐久毘売瑠璃の爪)タイプ
の2種類があると思うんですが、この作品は微妙にどっちにも当てはまらない第3カテゴリ(勝手にカテゴライズ)。強いて言うなら『ブルー・ロージス』の黎子・明子姉妹とか『テレプシコーラ』の六花・千花姉妹と同じタイプ。姉妹それぞれに良いところがあるのに片方ばっかり目立ちすぎて、影に隠れてしまう妹(姉)。

「この子はあたしがこうであったら という望みをみな持って生まれたんだわ♪」
子供の頃の親の偏愛により、そして成長してからは周囲の扱いの差により、少しずつ歪んでいってしまったエブリーヌ。多分母親は自分のブルネットの髪と灰色の目がよほどコンプレックスで、自分と同じ要素を持つ次女を無意識のうちに冷遇してしまったんじゃないかなー。そして「自分の修整版」である金髪碧眼のデルフィーヌには自分の理想を詰め込んだフリフリのドレスを着せ、 エブリーヌの髪は刈り込み。エブリーヌが可哀想だよ…。子供にこういうあからさまな偏愛をする親は現実にもけっこういて怖いです。

母親が死んでからは何もかも姉の真似をして育ってきたエブリーヌは姉と同じく女優になりますが(なぜわざわざ比較されそうな職業を選ぶ?)一向に仕事がやって来ません。
ある日、密かに憧れていた姉のエージェントと姉が愛し合っていることを知り、エブリーヌの恨みは頂点に…。やはりきっかけは恋愛がらみなんですね。

あんたなんか ただ あたしより2年前に生まれて
運良く金髪で青い眼だっただけじゃない
それだけで どうしてなにもかもあたしから奪えるというの


途中にあったカメラテストシーンを見る限り、デルフィーヌは「金髪で青い眼だっただけ」じゃないじゃん、エブリーヌよりも女優としての才能があるじゃん…と一瞬思ったんですが、よく考えたらエブリーヌのいう「人生の勝者」ってそういうことかも。金髪で青い眼ということと、天才女優ということと、人生の勝者ということはすべて繋がっていると言いたいのかも。
金髪碧眼の美しいデルフィーヌは子供の頃から両親や周りの人から可愛がられ愛され認められてきた。その結果、何に対しても誰に対しても気負いなく、いわれのない自信を持って堂々と振る舞える人間(女優)になった。エブリーヌが常にいわれのない不安と自信のなさにつきまとわれ、何に対してもオドオドとしか振る舞えないのと同じように…。
クリュタイムネストラさんや黎子さんも言ってたようなことですねこれは。性格は周りの環境によって形成され、自信は愛されないと与えられない。

特に何が悪いわけでもないのにお姉さんができすぎてるせいで「何となく負け組」になっちゃったエブリーヌがかわいそう。とっとと姉への執着を断ち切って遠い町にでも引っ越して自分自身の生活を一からやり直せば普通に幸せになれたはずなのにねえ…。顔は美人さんなんだから彼氏もすぐできるって。
でもエブリーヌも他の姉妹ものの妹と同じように、邪魔な姉を消してしまうのです。そして髪を金髪に染め本当の「デルフィーヌ」になるも、最終的にはポルノ女優ですよ。容赦ない。

「素敵な姉の真似をする妹」というテーマは大島弓子の『草冠の姫』にちょっと似てるかな。雰囲気はえらい違うけど(←こっちはハッピーエンドなので読後感は良いです)。
むしろ「ルームメイト」の方が近いか(笑)自分に憧れる女に乗っ取られそうになるというストーリーのサイコサスペンス映画。
…しかしこういう羨望・執着・殺意の入り混じったドロドロした話ってだいたい「女」の話なんですよね。主人公を男に置き換えると急に生じる違和感。不思議。
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ブルー・ロージス

Category:山岸凉子

ブルー・ロージス
1991年

自選作品集 ブルー・ロージス(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



「わたしぐらい役立たずの人間はいないわ。
気はきかないしグズだし なにをやってもドジだったのよ」

黎子(たみこ)
は男性と付き合ったことがないまま30歳になろうとするイラストレーター。
子供の頃に親からかけられた呪文のせいで自分に自信が持てずにいた黎子だが、ある時男性編集者の和久と出会ったことで、黎子の人生は少しずつ変わりはじめる。


私が山岸先生のマンガを読むようになったのは、母の本棚に山岸凉子(他24年組)の単行本が何冊かあったのがきっかけなのですが、何冊かあった単行本の中にこの『ブルー・ロージス』が入ってたんですね。
最初に読んだ時、私はまだ小学5年生くらいで、その時の感想は「主人公に彼氏ができて? 料理が上手くなって? …で、別れて終わり? 地味な話だなー」というかんじで、全然ピンときてませんでした。
でも20歳を過ぎた頃に読み返してみたら…すごい染みたんですよ。
子供時代、出来の良い妹(明子)と比べて親から褒められることがなかったせいで自分に自信の持てなかった黎子。大人になって初めての恋人にありのままの自分を認めてもらえて、愛情込めて褒められたことによって自分を認められるようになり…。

「安心して。黎子さんそんなにドジじゃないって。
もっともドジの黎子さんも可愛いと思うけど」


わかる! わかるよ今なら黎子の気持ちが! そう、人は褒めてもらえないと自信なんか持てないの! 子供の頃に与えられなかった「自信」を、大人になってからようやく与えられた黎子…。山岸先生の「救済系」(←勝手にこう呼んでいる)はいつもじーんとくるなぁ…。
和久さんと別れた後、彼に褒めてもらった料理を自信を持ってチャカチャカ作る最後のシーンなんか泣けます。

これはあの人から与えてもらったものだ……
どんな料理もおいしいと言って食べてくれるから
気がついたら自信をもって料理することができるようになっていたんだわ
そうか 明子のあの自信が子供の頃与えられたように
わたしは得そこなった自信をあの人に与えてもらったんだ


この話は「喪女黎子」「自信なし黎子」というふたつのテーマがあると思うんですけど、私は「自信なし黎子」の物語にすごいグッときちゃったので、和久さんが実はちょい二股だったとか、黎子が傷つきたくなくて目を背けていたとか、男女の恋愛沙汰がどうこうなるあたりはわりとどうでもよくなっちゃいました。でもまた数年後読んだら違う感想が出てくるのかも。
(この二人は結婚してないので「不倫」とは言いませんが、一応主人公が浮気されてるので「不倫」タグつけておきます↓)

それにしても「線の細い植物的な男性」のイラストが売りだった黎子が、男を知った後にはその絵が描けなくなった…というくだりは無駄に生々しい(笑)
星の素白き花束の…』の聡子さんの時も思ったけど、絵柄変わった後のイラストちゃんと売れてるんですかねー。心配。

木花佐久夜毘売

Category:山岸凉子

木花佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)
1986年

瑠璃の爪(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 月読(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



わたしの名前は姉がつけました 典子…と

高校生の典子には3歳上の姉がいる。姉の咲耶は子供の頃から優等生で、両親は咲耶ばかり可愛がっていた。
さらに自分の名前「典子」まで「たった3歳の咲耶が名づけた」という自慢話の種にされ続けた典子はすっかりひねくれてしまっていたが…。


山岸先生だってたまには人死にの出ない姉妹ものを描くよ!ということで、木花佐久夜毘売です。
「美人ではないけど優秀な姉」と「美人だけど不出来な妹」という構図は『瑠璃の爪』と同じタイプですね。親が偏愛する対象が逆ですが、どっちも妹が主人公。
姉ばかり愛される家庭で育ち、すっかり不良娘になってしまった典子。いつもどおり夜遊びをしていてエロ親父にからまれた典子を助けてくれたのは偶然にも、咲耶の元同級生・飛渡でした。

「あたしは姉さんとは違って頭悪いから 勉強なんか大嫌い!」

ここで典子が飛渡くんに話す昔話(典子がテストで100点取ったことを姉さんのおかげということにされた)から察するに、咲耶は普通に性格悪そうなんですが…。クスッて…。咲耶さん、家での評価はさておき学校に友達いるのかしら。心配。

飛渡くんは典子の名前に対するコンプレックスがわかります。何故なら彼の名前「圭」も、死んだ兄の名をそのままつけられた名前だからです。

「姉さんにつけてもらった名前…それ自体はいいんだ。
それはすばらしい事だよ。すばらしい……だけど そこにきみがいない。
そこには3歳で妹に名前をつけた天才の咲耶さんはいてもきみが…きみの存在が…」


初めて自分のことをわかってくれる人に出会えた典子は泣き崩れ…。
それ以来、典子は子供の頃からの辛かった話を全て飛渡くんに話すようになります。
このお話は「姉妹もの」には珍しくちゃんと救済者が現れるのでハッピーエンドになります。最後の新幹線のシーンのしおらしい典子がかわいい。

わたしでも木花佐久夜毘売になれますように

このお話を読んで思ったんですが、『鬼子母神』の瑞季ちゃんといい、山岸作品の「兄弟姉妹と比べられる」系の主人公の場合、ちょっと一時期グレてた子の方がその後の人生うまくいってる気がします。両親の言うこと真面目に聞いてないで、てきとーに反発しちゃった方がいいのかも知れませんね。二人とも家での評価はダメ人間でも学校ではそこそこ人気者だったし。
家庭で顧みられない子が外の世界に居場所作れてる描写を見ると安心します。『常世長鳴鳥』の雪影なんかそれすらなかったもん…。

黒のヘレネー

Category:山岸凉子

黒のヘレネー
1979年

スピンクス(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子作品集〈9〉傑作集3 黒のヘレネー』(白泉社)
山岸凉子全集〈31〉黒のヘレネー(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



「その女のまわりは 禍々しい黒いものでいっぱいだ!」

絶世の美女ヘレネー。彼女はいつでも美しく、素直で、微笑みを絶やさず、誰にでも優しく、そして誰からも愛された。
しかし彼女の美しさは知らず知らず周りを不幸へと導いていった…。


この話はすごい好きです。ヘレネーみたいな、その人の特殊な人間性にスポット当てて描かれた話って面白いのが多い。
ギリシャ神話のトロイア戦争という題材をここまで「いるいるこういう人!」と思わせるリアルな人間の物語へと変貌させるなんてすごいなー。

家にいても外に出ても賞賛の嵐を浴びるヘレネー。でも生まれつき美しく素直だったヘレネーにとってはそれが当たり前。誰に褒められても別に今さら嬉しくありません。
そんなヘレネーが唯一苦手とするのは姉のクリュタイムネストラ。不美人な上に陰気で、おまけにひねくれ者。だから家族からも冷たくあしらわれる。そしてなぜかいつもヘレネーを恨みがましい目で見るのです。

ヘレネーのように姿形が美しければだれからも愛される
ならば素直でいることも簡単なもの
誰からも愛されず 醜いと後ろ指さされるからこそ
ひねくれもするし 意地悪くもなるのに


ヘレネーはいつも退屈。何をやっても美人だし愛されるし。
メネラーオスと結婚したら楽しくなるかと思ったけどやっぱりすぐつまらなくなったので、ギリシャの金銀財宝を持ってトロイアの王子パリスとかけおちしました。
妻を取られたメネラーオス王は怒ってトロイア戦争を起こしました。
パリスは死に、トロイアは陥落したしギリシャ側もいっぱい人が死にました。またヘレネーは退屈な日々に戻りました。でもまだ若く美しい自分に誰かが楽しいことをくれると信じています。

読む側からすると「わざとやってんだろおまえ」と言いたくなるような「無自覚の悪」のかたまりであるヘレネー。ヘレネーのせいで起きた戦争でクリュタイムネストラの幼い娘が生け贄にされたという話を聞いても優しく同情するだけ。

「まあ…なんと言っていいの。運が悪かったのですねえ。お気の毒だわ。
あなたはいつも運がお悪い。いつもご同情しておりましたの」

あんたのせいあんたのせい!

「おまえは身も心も真黒な女なのだ これ以上生きていてはいけない」

「殺してやる」じゃなくて「生きていてはいけない」なとこがいいですね。言い得て妙。
…ヘレネーからすれば「同情してあげたのに何故?」という気持ちなんでしょうけど。
「わたしがなにをしたというの」とか言ってるしね…。無自覚の人って厄介だ。

いやいや あたしがこんな気違いの手にかかって死ぬなんて
死ぬなんてうそ!
あたしにはもっと晴れやかな人生が 続くはず……


ドリーム』の丹穂生さんと気が合いそうですね。
しかし周りからは「素直で優しくて無欲だ」と言われるヘレネーの「黒さ」に気づく人と気づかない人の違いは何なんだろう? 戦後の会話からしてメネラーオスは薄々気づきかけてる気がする(笑)
丹穂生さんの性質も旦那さんは気づいてたしね…。

私はこのヘレネーという女、萩尾望都の『メッシュ』に出てくるポーラっていうキャラと重なるんです。
このキャラも愛想良くて優しくて誰からも好かれる美人なんですが、人の言うことはすべて聞き流し忘れ、うっかり人殺しても全然気づかないで「お気の毒だわ」とか言ってニコニコしてるというすごいキャラだった…(萩尾先生のお姉さんがモデルという噂あり)。


*****

本編とはあんまり関係ないですが、冒頭のギリシャ神話「パリスの審判」
「三女神のうち誰が最も美しい女かを決めようとする対立勃発
→三女神、審判に買収するためにすごい貢ぎ物を約束する
→最も美しい女(ヘレネー)を与えることを約束した女神が優勝した」
ってなんか矛盾してるような…。最も美しい女に選ばれるために最も美しい女出してどうする、みたいな。
まあ女神と人間の美人コンテストは別枠なのかも知れないけど…。でもヘレネーも父親ゼウスだから半分は神だけど…。…ギリシャ神話はよくわからん…。

常世長鳴鳥

Category:山岸凉子

常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)
1985年

時じくの香の木の実(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



あんたなんて あんたなんて 早く死ねばいいのよ!

美しく病弱な姉をもつ中学生の雪影(ゆきえ)は、幼い頃から姉・花影(はなえ)を憎んでいた。
家族の愛、自分の将来、好きな人まで奪われそうになった雪影は、ある行動に出る…。


美しい姉・花影は冒頭からいきなり川にはまって死んでます。そこから始まる雪影の回想。
山岸先生お得意の姉妹因縁ものです。家族から心配され愛される花影。健康体ゆえに家族からほっとかれる雪影…。
瑠璃の爪』の複雑な愛憎模様に比べたらだいぶシンプルな「恨み」一直線のストーリーとなっていますが、その分「不美人で健康な妹(設定だけに留まらず、実際に不細工に描くとこが山岸先生のすごいところだ;)」の行いの恐ろしさが際立ちます。
わざと花影を階段で転ばせるとか、鳥の羽散らしてわざと喘息を起こさせるとか…この度を超えた嫌がらせがホラーじみてて怖い! しかも誰にもバレないように実行するという狡猾さ。

黒のヘレネー』のクリュタイムネストラ(この人は不美人な姉)が言っていたように、人の性格は周りの態度や言葉によっても作られていくのだ、ということを山岸先生は作品でたびたび語ります。
性格の悪い雪影だって昔は普通にいい子だったはず。両親や祖母が花影ばかりを可愛がり、雪影を顧みなかったせいで、雪影の心はどんどんねじくれていったのです。
一方家族に大事にされて育った花影はおっとり優しいお姉さんで、雪影に怒鳴られても謝るだけ。妹に憎まれる姉が必ずしも性格悪いわけではないのも山岸姉妹系作品の特徴だなあ。
ちなみに花影は意味もなく綺麗な着物姿を披露します。ぶち抜きで。

雪影の憧れの先輩と花影が親しくなってしまったことで、雪影の怒りはとうとう頂点に。
やっぱり引き金は色恋沙汰なんですね。

なによ! なにもかも一人占めするつもり!?
あんたは何だって持ってるじゃない!
あたしの分も何もかも全部あんたが取ってったんじゃない
半分死んでるくせに なんだってそんなに欲ばりなの!


憤怒の形相で花影の半衿をズタズタに切り裂く雪影が怖い。
この後花影は雪影に川に突き落とされ、冒頭につながるわけですが…。証拠さえ出てこなければ過去の「バレない嫌がらせ」と同じく完全犯罪になるとこでした。おっかねえ。
「あたしは健康だし頭がいい」という、自分のなけなしの長所を並べ立る雪影…。切ないですなあ…。

ラストの、ニワトリの血にまみれながら満面の笑みで花影の着物を着てみる雪影がすげー怖い!

わたし これからお姉ちゃんのぶんも うんと親孝行するわ
お母さん達も気がつくと思うのよね
あたしがお姉ちゃんより ずっとずっといい子だということに

瑠璃の爪

Category:山岸凉子

瑠璃の爪
1986年

瑠璃の爪(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



上杉絹子(28)は、実姉の敦子(31)を刺し殺した。
その後、複数の関係者の証言によって姉妹の関係は少しずつ浮き彫りになっていく。


この「関係者への取材」という形をとった構成の臨場感がすごい!
本当にこういう事件があったんじゃないかと思ってしまうくらいです。

「絹子は存在感が薄かった」「ピアノを習っていた」「元気で明るかった」「虚弱体質だった」「美人だけど暗かった」「落ちこぼれだった」
「敦子は優等生だった」「しっかりしたお嬢さん」「姉妹仲はよかった」「妹さんとは雰囲気が違った」「妹思いだった」

発表会のドレス・母親の偏愛・派手な結婚式・絹子の縁談・無意識の悪意…。
絹子が敦子を殺すまでに何があったのか?
離婚した敦子の元夫は少し気づいていた。

「仲…よさそうでしたよ。少なくとも表面上は。
…ただ、敦子のやつ、自分で意識しているかどうかわからないけど
絹子さんのこと…憎んでましたね

敦子の真顔が怖い。

「せっかく母が亡くなって自由になったと思ったのに。
え あんなに母に愛されたのになんというバチ当たりな事をと。
みんなそういうんです。兄も…そして姉も」


絹子は母親に溺愛されて育ったが、それを愛されてるとは思えなかった。
「本当はピアノが大嫌いで才能もなかったのに、発表会で誰よりも目立つドレスを着せられて本当につらかった」と言う絹子。可哀想。
でも敦子の結婚式の台詞からすると、敦子は母にドレスを買ってもらえる絹子が羨ましかったんじゃないのかな…。

母親が死んで絹子がホッとしたのも束の間、今度は敦子が干渉し始めた…。
このお姉さんも、自分の悪意に気づいてないんでしょうね。

「あたしのためを思ってやっているのだと信じている姉の
善意一杯の笑顔を見るのが あたし…」


絹子の自我のなさというか主張の薄さに、読んでて歯がゆくなってしまいます。絹子がもうちょっと思ったことを口に出せる娘だったら母からも姉からも解放されたかも知れないのに…。絹子だけのせいじゃないけどさ。

敦子と兄は母親から特別に愛される絹子を憎むし、絹子は母親の偏愛から逃れたいのに反発できないし、母親が死んだら今度は敦子が無意識のうちに絹子の幸せを潰すし、なんかもう誰も救われないまま終幕。

「あたしが自分で行動して成功した事は今度の事だけ。
こんな幼児的な行動しかとれなかった滑稽なあたし。
でもいいの。あたし満足してる。
この手首にくいこむ冷たい金属の感触に満足している」


「姉妹の因縁話」はもはや、山岸先生の作品の一ジャンルといってもいいほどいろいろありますけど(そして結構な確率で姉が妹に殺されるという…)、この作品はそんな中でも特に複雑に愛憎が入り混じっててリアルな話だと思います。
敦子の元夫の言うように、「姉妹なんて多かれ少なかれ、みんなそんなところあるんじゃないですか」と思えるところが怖い。

そういえばこの作品は87年にドラマ化されたらしいですが、未見。どうだったんでしょう。

時じくの香の木の実

Category:山岸凉子

時じくの香の木の実(ときじくのかくのこのみ)
1985年

時じくの香の木の実(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 夜叉御前(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈6〉夏の寓話』(潮出版社)
に収録。



「それを食べるのです。それを食べるとおまえ達のどちらかが
永遠に年を取らない者になります」


正妻の娘・日向(ひゅうが)、妾の娘・日影
ほぼ同時に8歳になった二人は、巫女である大叔母の屋敷に連れてこられ、どちらが跡継ぎとなるかが試される。差し出されたのは奇妙な果実…。
聴覚と引き換えに巫女になったのは日向だった。日向はそれ以来年を取らず、何年経っても幼女のまま、予言能力を持つ巫女として一族の頂点に君臨するのだが…。


私が一番最初に読んだ山岸マンガです。
かなーり暗い救いのない不老不死もの。山岸マンガらしく、誰も幸せになりません。
あと、着物がいっぱい出てきてキレイ。

いつまでも我儘な子供のままの日向、女として成熟した体を持てあます日影。対称的な二人の描写が見事ですよね。日影が自らを慰めるシーンが艶めかしい…。

なんだか性格の悪い日向はとにかく腹違いの姉の日影を嫌悪しますが、
醜く肉のついた大人の女の体を持つ日影は、日向が愛してやまない長兄と関係を持ってしまう。
そして日向は「永遠に年を取らない」の本当の意味を知る…。
衝撃的ですね、このシーン。何故今まで気づかなかったのか。

日向という存在は計画されていたものだったのか? 日向も思ってるように、そこが私も気になります。「神」と、その神の声を聞く「巫女」がいるなら結局二人必要だよなぁ…。

幼女に奉られる供物とか、突然壊れる廊下とか、全体的に不気味な雰囲気満載の作品。
またこの、日向が聴覚を失ってるせいで作品全体の空気を浸す静寂(日向以外誰も台詞を発しない)が妙に不安感をかき立てるんだ…。こういう「落ち着かないかんじの空気」を描かせたら山岸先生は日本一ですね。

日向のモノローグと台詞だけで進んでいた物語は、同じく日向の怖いモノローグで終わります。
「黄泉比良坂」もそうだけど、死者の一人称で話が進むのがすごいと思うんですよ…!

永遠に8歳のまま成長することもなければ衰える事もないわたしを
誰かが不安に思っているようですが…
バカにしないで
わたしの分別まで8歳というわけではないのだから


バックのキノコ雲が怖い!




*****
こんな話を見つけたので少し書きます。
ネタバレ注意。


「死んだ子供がその家の福の神になる」という言い伝えがあります。
だいぶ昔ですが、豪家や旧家では、死んだ子(の魂? 霊?)を手厚くもてなして、家の一画に子供部屋を作って食事や玩具も供えるという風習がありました。
その子がいる限りその家は安泰するという、いわゆる座敷童です。

日向もこの類の「神」になったんじゃないかと…。
うわー、実際の話とリンクさせるとなんか余計怖い!

「古い屋敷を取り壊す作業中、ドアのついてない座敷牢のような子供部屋が出てきた」ということもあったらしいです。使った形跡のない埃まみれの子供部屋……怖!

私がゾッとしたのは、
その子供に「体(魂の器)」として「お人形」を与えるという話。
日向が、自分がもらったと思って喜んでる(最後のページでも抱いてる)市松人形は、もしかしたらそれ用だったんじゃあ…。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.