裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

スポンサーサイト

Category:スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

負の暗示

Category:山岸凉子

負の暗示
1991年

パイド・パイパー(ユーコミックスデラックス)』(集英社)
神かくし(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈5〉天人唐草』(潮出版社)
に収録。



この僕が並以下… 澄子も僕が丙種なのでばかにしている
澄子…みゆき 女にここまでバカにされていいのか
たかが女に その女に…この僕が…


昭和13年。一人の男が一晩のうちに村の住民たちを30人惨殺するという陰惨な事件を起こした。
そのまま自殺した犯人は、これといって極悪人でも精神異常でもない平凡な22歳の青年・土井春雄だった。
彼はなぜこのような事件を起こすに至ったのか…。


昭和13年に実際に起きた日本史上前代未聞の大量殺人事件・津山三十人殺しが元になってます。『八つ墓村』の元ネタにもなった事件です。(ちなみにこの事件、調べていくと、当時の田舎村のフリーセックスっぷりと「寺井」性の多さに困惑すること間違いなしである)

斧、刀、銃などを使い、祖母を皮切りに1時間半で30人を殺害。犯人の春雄(都井睦雄)は、どのような人物だったのか。どういった環境で育ったのか…。
犯罪心理とか好きなので面白かったです! 山岸先生の社会系マンガの中でもかなりの大作ではないでしょうか。

子供の頃は優等生だった春雄…。でもお金がなくて進学できなかったり、畑仕事がたるくてさぼったり、コツコツ勉強できなくなったり、いつの間にかニートだったり、肺病を嫌われたり、女と遊んで現実逃避してみたり、ちょっとしたことが春雄を破滅へと導いていった…。
この「小さい頃はできた子だったのに…」って人はいつの時代にもいるんですねぇ…。

祖母に溺愛され 優しい姉にかしづかれて
春雄はいつのまにか 世の中は自分を中心に回っているという感が強くなっていた
この 何事につけても自分が1番であるべきと思う全能感は
傷つけられた時 ひどく不安なものに変貌する
しかし 本来 この子供っぽい全能感は 成長の過程で打ち破られていくものなのである


しかし、春雄は奇跡的に(?)全能感を打ち破られないまま大人になってしまった! これが本当は春雄にとっての一番の不幸じゃないだろうか。少なくとも私はそう思います。これおばあちゃんにも責任だいぶあるよね…。
そんな「僕が一番偉い」という増長しきったプライドを持った春雄にも、現実は容赦なく襲いかかります。いつの間にかさっぱりついて行けなくなった勉強。畑仕事しないから男たちから仲間はずれ。手当たり次第に女に手を出し嫌われ。そしてとどめは徴兵検査の結果が「丙種」。軍国主義まっしぐらのこの時代でこのレッテルは、春雄を村八分にするのに充分な理由でした。

「優秀な男であるはずの僕」は村の男からも女からも忌み嫌われ、肉体関係のあったみゆきにもこっぴどく振られ「隆のほうがヨかった」とか言われてしまい、初恋の人妻・澄子さんにも「これくらい言わないとわかんないんだから」と同じくこっぴどく捨てられてしまいます。(春雄は何でも自分の都合の良いように取るため、過去に澄子が無言の愛想尽かしをしても気づかなかった)

本来 甲種でもおかしくない優秀な人間であるこの僕が こんなにも虚仮にされて…!
それに丙種は僕の責任じゃない そうとも すべて 僕の責任じゃない
いつも周りの人間が僕を悪い方へ悪い方へと導いてゆく…あいつら女共
あいつらに思い知らせてやる その土井春雄が一角の男だったということを
あいつらに嫌というほど思い知らせてやる


そんで春雄は神戸まで殺戮用武器を買いに行くんですけど…。うーん春雄、そのまま村を出て広い世界で暮らしていたら再スタートできてたかもよ? 何となく、春雄は閉鎖的な村から出てった方がうまくいくような気がするよ?
昔の人ってあまり生まれ育った村から引っ越したりしないのかな。ていうか、春雄がもうこの時、全員ぶっ殺す>>>人生をやり直すになってたからだめか…。

春雄が女との現実逃避にのめり込むきっかけとなった年上の人妻・澄子さん。これが決して性格の良い人ではないのですが、常に自分の利益だけを考えて生きる澄子さんは、なぜか見ていて妙に小気味良いというか、事件の寸前に「沈む船からいち早く逃げる鼠のように」京都へ引っ越す要領の良さとか、悪女っぽくていいかんじ…。
あと春雄が2番目に恨んでたみゆきも逃げおおせて軽症で済むという悪運の強さだし…。この二人、やな女なんですけど、実はけっこう嫌いじゃないです。山岸先生が描くと『月読』の天照さんみたいな、悪くてずるくて強い、妙な魅力を感じる。
この二人を逃がしたのは本物の春雄(睦雄)も遺書で悔しがってます。「うつべきをうたずうたいでもよいものをうった」

突入前の春雄の目 が 怖 い 。
ていうか…ぶっ殺しても「一角の男」だと思い知らせたことにはならない…よね? 春雄くん?
そして深夜。村中の電気を停電させた春雄。あとはただ、阿鼻叫喚地獄。春雄が「祟りじゃー!」でおなじみの例の格好で恨みのある村人を殺しまくりまーす…。何これホラー映画じゃないか…。
有名なエピソードである「おまえは僕の悪口を言わなかったから撃たない」「あっちゃんちはここか。紙と鉛筆を借してくれ」のシーンも出てきて、本当に春雄は自分の基準のみで生きているなぁ。
春雄も可哀想なとこあったけど、自分大好き人間に危害を加えられる側としては、迷惑以外の何物でもありません。
事件的には秋葉原の事件なんかも同質のものと言われていますね。なるべく多くの他人を巻き込んで死にたいという…。今も昔も変わらぬ人間の心理ですな。
「真に恐ろしいのは、弱さを攻撃に変えた人間」by荒木飛呂彦。

~以下、思い出話~
春雄は私が子供の頃、近所に住んでた男の子・ハルオ(仮)にすごい似てるんです。当時ハルオが中学生、私が小学校低学年かな?
もう、性格はマジで春雄。「僕が一番偉い思考」「急に変なことでキレる」「言うことはでかいけど行動しない」「都合いい病弱アピール」など、春雄にそっくりでした。
育った環境も似ていて、過保護な親から溺愛されてて、おこづかいを何万円ももらってて(家は春雄と違って近所でも有名なお金持ちだった)、大人でも買えないようなブランド品を持ってて、周りの子たちから羨ましがられて…。
でもその反面、金品を渡して他の子(主に年下)を家来のように扱ったり、ちょっと否定されると人が変わったように激怒することが目立つ子でもありました。
引っ越しちゃったからあまり覚えてないけど、確か途中からハルオは周囲から孤立していってたよなー…。子供たちの親が「あの子から金や物を受け取るな」と叱ったのもあるし、取り巻きの子供たちも育つにつれ、ハルオの人格とか金遣いを恐れはじめて。
彼は今どうしてるんだろう…。だいぶ後に聞いた噂では、大人になってもあの性格は治らず、芸術家か何かを目指して美大?に落ちて以来、精神に異常をきたして入院したって聞いたのが最後だなぁ…。
今思うと、ハルオは自己愛性人格障害だったのかなーって思います。春雄も自己愛だったんじゃないかなー。どうも事件を調べてみるとそんな感じが。祖母の育て方が明らかに自己愛養成プログラムだし…。
私は『負の暗示』を読むたびにハルオのことを思い出します。春雄も、ハルオも、もっと早い段階で挫折を知るべきだったのではないでしょうか。生まれてから一度も折れることなく育ってしまった増長した自尊心とは、あんなに人の人格をねじ曲げてしまうものなんですね。
最近、日本は特に自己愛が増えてるとか。なんでだか知んないけど、もうこれ以上あの手の自分大好き人間と関わりたくありません本当に勘弁してください。(←なんか他にも春雄じみた人間に嫌な目に遭わされてきたらしい)(自己愛ってみんな性格同じなの何で…?)

しかし、子供を育てるのって本当に大変だよなぁと、しみじみ思います。親御さんだって、ちょっとやり方がまずかったとはいえ、息子可愛さに金を与えただけだし、彼だって欲しい物なんでも手に入って威張れて良い気分で子供時代を過ごしたろうに、それだけじゃだめなんだなぁ…。それだけじゃ歪んでしまうんだなぁ人間は…。本当に人間を育てるのは難しいなぁ…。(´-ω-`)
スポンサーサイト

雨女

Category:山岸凉子

雨女
1994年

押し入れ(AmieKC)』(講談社)
押し入れ(KCデラックス)』(講談社)※上の復刻
に収録。



「お母さん あのおじさん 長い物を引きずってるよ」

三田数良はその恵まれたルックスで数々の女を物にし、金目的で手にかけてきた。女たちの愛と怨念に取り憑かれることになるとも知らずに…。


主人公の女性はおそらくジェイン・ドゥさんこと千鶴子さん(作中では名前が出てきません)。自分が数良に殺されたことに気づかず、数良を見つめ続ける。
この千鶴子さん、ところどころのコマでさりげなーく首に布が巻き付けられています。山岸先生ってたまにこういうことしますよね。『汐の声』のロングのシーンの床のアレとか。あれはびびった…。
この作品は出てくる幽霊二人とも自分が死んだ自覚なしで勝手に動いてて変なかんじ。

三人目の女・よし子も殺してしまう数良。でもマスコミに対しては涙で応答してみせます。演技派です。一方その頃、千鶴子の遺体が発見されます。
今まで視点キャラだった千鶴子が一瞬で「ゴミ袋に詰められた死体」になったシーンはけっこう怖かった…。なんかね、「人を脅す気のない幽霊」って怖い…。黒いゴミ袋の中で正座ですよ?
冒頭の「立てない!?」のシーンの変な外枠はゴミ袋だったんですね…。あの頭をつかえてつんのめった体勢の意味がここでようやくわかるという。

マスコミに囲まれながら帰宅する数良。数良のうしろから「長い物」が繋がっていることに、近所に住む少女だけが気づく。

罪が暴かれようと暴かれなかろうと
彼は“長物”を引きずっている
これが人間に憑く背後霊の中でも もっともたちの悪いものだそうな


さて、「三田数良」の元ネタこと三浦和義は2008年に留置所で首を吊った状態で死んだわけですが、自殺であれ他殺であれ事故であれ、「長い物」が首にグルグル巻き付いて死んだ…と考えると何だか辻褄が合ってて恐ろしいですね!(首つりに使われたのはTシャツらしいけど)
前にテレビかなんかで見た霊能力者も「三浦和義には女の長い髪の毛がグルグルまとわりついている」的なことを言ってたし。怖いよー。

でもこのマンガに出てくる三人の女の霊は「呪ってやる!」という恨みの気持ちは描写されておらず、自分が死んだことすら気づかず、ただ数良の後にズルズルついて行くだけの存在なんです。単なる恨みの感情より、こういう「愛だか怨念だかもうよくわからない強い執念」ってのが一番怖いと思うのです。

あやかしの館

Category:山岸凉子

あやかしの館
1981年

『あやかしの館』(プチ・コミックス)
山岸凉子作品集〈10〉傑作集4 夏の寓話』(白泉社)
山岸凉子全集〈17〉ゆうれい談(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子恐怖選〈4〉汐の声(ハロウィン少女コミック館)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子スペシャルセレクション〈10〉ヤマトタケル』(潮出版社)
に収録。



「だれかいるんですよね」

は高校に通うために、叔母の由布子の家に居候することになった。
浮世離れした由布子の性格にも慣れてきた頃、葵はその家で起こる奇妙な現象に気づく。


この後『二口女』(由良子さん&縁ちゃん)『ケサラン・パサラン』(由良子さん&紫苑ちゃん)と続く「気持ちだけは異常に若いイラストレーターのおばさん&寒色系の名前の女の子」という二人が出てくる作品群の一番最初の作品です。
その中で一番どうかしている由布子さんは、なんか微妙に失敗した洋館に住んでいましたが、その家は変なことばかり起きます。怯える葵ちゃんですが、由布子さんは「えーでもしょうがないじゃない」みたいな反応で終わらせてしまいます。肝が据わっているというか図太いというか。

この話に出てくる由布子さんの「あやかしの館」は山岸先生が当時住んでいた家をモデルにしただけあって、葵ちゃんの恐怖体験が妙にリアルで怖いです。家電が信じられないくらい故障する。ドアも開いてないのにドアの開く音。玄関ドアの覗き穴から見える、金色の光をひいて歩く透き通った人…。
最後はギャグで終わらせてくれてるのがありがたいですが、やっぱり怖い。「寝てると近づいてくる誰かの足音と吐息」が一番イヤですね。でも金色の帯はちょっと見てみたいかも?

「おかしいと思ってたのよね この家。
とくに玄関がよ。信じて ね! 由布子さん」

「だからって どうしようもないではありませんか」

葵ちゃんとはまた違うクールツッコミの家政婦・寒川さんには理由がわかってました。

「お玄関が表鬼門なんですよ この家。
古いことをいうとお思いでしょう。
でも玄関が鬼門じゃ 何かが通ってもあたりまえなんですよ」


『山岸凉子全集〈17〉』の巻末には山岸先生のインタビュー記事「山岸凉子の幽霊譚」が載っていて、『あやかしの館』に出てくる不思議エピソードは全部、山岸先生が自分の家で実際に体験したことだと語っています。す、すごいな…。このインタビューの時はすでに「鬼門」の玄関は改装されていたらしい。
「玄関に貼ったお札だけがはがれるんですよ」
「鬼門を閉じたら精神は平穏になったけど、仕事は鬼門が開いてた時の方が調子が良かった」という話も出てて、悪いことばかりじゃないとこが逆にそれっぽくて面白い。お手伝いの寒川さんの名前の元ネタは寒川神社か…。

私はというと、家相とか鬼門とかあんまり信じてないんですけど、『ケサランパサラン』にもちらっと出てきた「方違え」ってやつはちょっと信じてるんです。何故かというと↓

昔、私が子供だった頃、両親が「田舎の一軒家に住みたいわ」というありがちな願望を抱いたため私たち家族は同県のわりと田舎の方の市に家を借りて引っ越したんですね。
母はたまたま機会があって視てもらった占い師から「今の時期にその方向へ引っ越すのは良くない」と言われたらしいのですが、あまり気にせずその田舎町で新生活をスタートしたんです。
しかし憧れの田舎ライフは想像と違い過酷でした。私たち家族は近所の人々からよそ者扱いされ、私は転校先の小学校がなんか軍隊か刑務所みたいな学校で、(校舎は高い塀で囲まれて生徒が逃亡できないようになっていた)担任教師にいじめられ不登校→引きこもりになってしまい、家族全員心身共に疲労し、たった1年で元住んでいた町の2DKのアパートに逃げ帰ってしまった、という苦い経験があるのです…。
占いの結果とそれとは偶然かも知れませんが、あの頃の生活があまりに強烈に酷かったので信じざるを得ないというか…。うちの両親は今でもたまにあの頃を思い出して言います。「あの占いは当たってた」と。
そういえばあの田舎で借りてた家もよく幽霊出てたなー。だから家賃格安だったのかな。

牧神の午後

Category:山岸凉子

牧神の午後
1989年

牧神の午後』(朝日ソノラマ)
青青の時代〈4〉(希望コミックス)』(潮出版社)
牧神の午後(MFコミックス)』(メディアファクトリー)
に収録。



翼を持った者には腕がない!
腕がある者には翼がない
それがこの地上の鉄則なのだ


1909年。ロシアバレエ団の新人、ヴァーツラフ・ニジンスキーは「アルミーダの館」で衝撃的なデビューを果たし、その異常なまでの才能で人々を驚かせ続けた。
しかしバレエマスター、ミハイル・フォーキンだけは、ニジンスキーの天才性の裏にある「社会にまるで適応できない」という重大な欠点に気づく。


伝説の天才バレエダンサー・ニジンスキーのお話。ミハイル・フォーキンの視点で描かれています。
上昇し続けて見えるあり得ない跳躍! 事故と間違うほどの拍手の音! 吠えるような歓声! 感動を通り越して動揺しはじめる観客! すごいなニジンスキー!

顔が変わった!?
姿が…フンイキが変わる!?
変身!? いや…! あれは そんな なまやさしいものじゃない
あれは… あれは まさしく憑依だ!


フォーキンは「憑依状態」(←バレエマンガにあるまじき単語出ました)のワッツァから金色のオーラが出ているのに気づきます。ワッツァは人間を超えた何かなのかも知れない。ワッツァの才能に驚きながらも、その反面、社交性が一切なく日常を生きていくことすら困難なワッツァの「影」にも気づきはじめます。

「ワッツァ 4メートル半も跳ぶなんて…よほど勢いでもつけているのか?」

「別に勢いなんか… 跳べるような気がしたから

フォーキンは「曲がるような気がするんだもん」という理由でスプーンをクニャクニャ曲げて見せた知人の息子とワッツァをダブらせます。子供のように既成の事実にとらわれずに「できる」と信じていられることが彼の力の源なのか。しかし、事実にとらわれないということは現実を習得できないことと同じ。ワッツァが世間の中で摩耗してしまうのではないかと危惧するフォーキン。
この作品ではニジンスキーの驚異的な才能を「一種の超能力」という観点から見てて面白いです。HUNTER×HUNTERで軍戯の天才少女・コムギちゃんが念のオーラ出せるみたいなかんじ? あの娘も軍戯以外何もできない子だったなあ…。
「翼はあるが腕を持たない」という比喩が上手い。実際、ある分野で天才と呼ばれる人たちって私生活はメチャクチャだったり人格破綻してたりしますもんね…。ワッツァみたいに「社会に適合できない」とかだったらまだいいですけど、家庭内暴力とかだとその人の仕事も嫌いになってしまう(井上ひさし嫌いになりました…)。

その後、ワッツァは普通の男としての幸せを追い求めて女性と結婚したら、パトロンで同性愛の関係だったセリョージャから恨まれて迫害され、ついには発狂してしまいます。すごい天才らしい生涯。(←不謹慎)
この物語ではフォーキンさんがワッツァの異能も欠点も気づいてくれてるから、フォーキン助けたれよ!と言いたくなってしまいますが、しょうがない。フォーキンはロシアバレエ団からいなくなるし、ニジンスキーの運命は決まってますからね…。

超能力にまで喩えられるニジンスキーの踊りを一度見てみたいなー。踊ってる時の映像が一切ないことがニジンスキーの伝説に一役買ってますよね。わかってるのに「空中で静止したかのような跳躍!」とか言われるとついYouTube検索してしまいます。ないっつーの。

グリーン・フーズ

Category:山岸凉子

グリーン・フーズ
1987年

パエトーン(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈9〉鬼子母神』(潮出版社)
に収録。



「僕がピアノを弾くよ
マーシャは隣で僕の作曲した歌をうたうんだ
ねえチャック この兄妹愛は絶対うけると思うよ
マーシャ きみのような妹がいて 僕は本当に嬉しいよ」


気の弱いマーシャの兄・トビーは歌も歌える子役。一世を風靡していたトビーだったが、声変わりし、体が成長してしまったことで仕事がなくなる。
逆に歌の才能を見出されたマーシャはトビーと兄妹デュオを組むことになるが…。


ブラコン・不美人・気が弱いと三拍子揃ったマーシャは、有名な子役である兄を心から崇拝し、学校にも行かず毎日テレビで兄の姿を探していました。しかしトビーが子役として駄目になった頃、それを補うかのようにマーシャの歌の才能が開花します。
こうやって書くと普通に兄妹デュオのサクセスストーリーっぽいのですが(実際にそういう話ではある)、メインはやはり兄妹の確執、兄の心の闇、妹の心の病…。またしても誰も幸せにならない、みんな可哀想なかんじのお話。

可愛らしい子役だったトビー。しかし子役として避けられない運命が彼に訪れる。ボーイソプラノは父親そっくりのダミ声に。どんどん似合わなくなる半ズボン。
トビーが大人の男に向かって成長しだして両親ガッカリっていうシーンがなんか悲しい…。

本来ならそれは成長の当然の結果として歓迎されるものだったでしょう
しかしエンジェルのような という形容で売っていた兄には
これはあまりにむごい変身でした


トビーは誰からも成長を喜んでもらえなかたんだろうなあと思うと可哀想です。普通親って喜んでくれるじゃん。でもトビーの両親は「もう贅沢できなくなっちゃう」ということしか考えない。トビーというキャラクターは全然好感持てるようなキャラではないのですが、それでも可哀想。
そして息子の栄光を引き留めようと躍起になる母親…。ああよみがえる『汐の声』のトラウマ。実は私の怖いものリストには「ステージママ」が昔から入ってます…。怖い。

ほとんど自閉的なマーシャをトビーが上手くフォローし、敬愛するトビーの影に隠れてマーシャが歌う…という微妙なバランスながら、トビーとマーシャのデュオは順調に売れっ子になっていきます。
しかしマーシャは徐々に拒食に陥っていきました…。

無論 私は痩せてきました
するとその事が 少しは私を美しく見せるように思えるのです
そうなると食事をしない事が快感になってきたのです


そういえばこの作品はカーペンターズがモデルなんでした(スペシャルセレクション9のコメントより)。
カーペンターズのカレンも拒食症で亡くなってるんですよね…。カレンといえば前に昔の映像をテレビで見た時、似合わないフリフリの白のドレスを着せられてうつむいていたのが印象的でした。…まさかマーシャがフリフリドレス着て「似合わ…ない」と落胆するシーンはこれが元ネタか…?

とうとう倒れたマーシャにトビーが胸の内を吐露するシーンが、こ、怖い。
子供の頃の恨みを無意識のうちに妹に向ける兄。自分より遥かに優れ恵まれていると思っていた兄の心の内を初めて聞く妹。実はお互いがお互いを羨(恨)んでいた。このへんは『瑠璃の爪』に似てるかも。しかもどっちかっていうとトビーが絹子?

「昔 僕がパパやママやきみを養っていた事を覚えているだろ
5、6歳の子供が寝る間もなく働いて 毎日眠くてしかたなかったよ
子役としてだめになった時も ピアノを昼となく夜となく
吐き気がするほど弾かされて本当につらかった
つらくてつらくてたまらないのに 子供の僕にはどうする事もできなかったんだ
それなのに きみときたら 毎日テレビばかり見ているんだもの
ひどいよね 僕があんなに働いている時
もう一人の子供はろくに学校へも行かず 遊んでるなんてさ」


息も絶え絶えのマーシャにひたすら語りかけるトビー。「やっと本当の気持ちを打ち明けられた」といったプラスイメージでは描かれてないところが怖い。
…ところで、アメリカって確か子役の労働時間規制が厳しくて「子供が寝る間もなく働く」のは不可能だったと思うんですが(アメリカに双子の子役がやたら多いのもこれが関係してるらしい)…。まあ昔の話ということで…。

惜しいなー。これカーペンターズモデルじゃなきゃ山岸先生はきっとこの二人を兄妹じゃなく姉妹にしたはず。そしたら「姉妹の確執系作品」コレクションが一個増えたのに。惜しいなー。(←何を勝手なことを)

タイムスリップ

Category:山岸凉子

タイムスリップ
1993年

自選作品集 タイムスリップ(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
ゆうれい談(MF文庫)』(メディアファクトリー)
に収録。



世の中 摩訶不思議な話というのは結構あるものです

山岸先生の実際の体験や、周りから聞いた「時間に関する不思議な話」をバカになりきって話す実話系の作品。
面白かった! こういう不思議な話大好きなんです。幽霊ものより超常現象っぽい話のが好き。

最初の話は「比叡山を車で下る時、何度も同じ場所に出てしまう」というお話。これは山岸先生の体験なのですが、驚くことにそれをアシさんに話した時、アシさんの一人が
「わたしも比叡山で同じ目に合った!」
タクシーで山道を下っているはずなのに何度も何度も見る景色。同じお地蔵様。うしろの席で不思議がっていると、タクシーの運転手さんが一言。
「いやあ! この辺はこんなことがよくあるんですよ」
地元では有名!? すごいや比叡山。さすが志々雄様のアジト。(←関係ない)
てことは地元の運転手さんはみんな、比叡山に登る時は時間の流れのおかしい所につかまってしまうことを覚悟して行くんですね(笑)すごいや。これ比叡山の七不思議に加えた方がいいんじゃないでしょうか。比叡山行ってみたい…!

山岸先生がまたそれを別の人・Yさんに話すと、
「わたしもそれと同じような経験しました」
こうしてつながっていく不思議体験の輪…。
東北地方を旅行中、速度と時間からいって目的地についてもいいはずなのに、なぜか終わらない真っ暗な一本道(怖い)。そんな時ふと見つけた小さな木造の建物(怖い怖い)。裸電球が灯っているのに誰も出てこない(怖い)。
しかも驚くことに、松島トモ子も自宅マンション付近で迷った時、同じような体験をしたらしいですよ。東北地方と東京で同じような無人の木造の建物。怖いって!
きっとその建物は異次元に迷い込んでしまった人を待ち受ける建物なんですよ…。管理人はこの世の者じゃないんですよきっと…。こっちはできるだけ行きたくないな…。

ここで山岸先生が抜粋した『世界不思議百科』は私も読んだことあります。けっこう面白かった。
博物学者のサンダーソン博士はアズエー湖の近くで道に迷ってしまった。歩き疲れてふと気がつくと、なぜか15世紀のパリにいた。
「15世紀のパリだ」ということは博士も、一緒にいた奥様も、なぜか直感で思ったらしいです。こ、これは怖い。下手したら帰ってこれなそう。
そしてやっぱり訳知り顔の地元民。比叡山付近のタクシー運転手のように、地元の人たちの間では日々「坊や、アズエー湖の近くはたまに500年前のパリになるから気をつけなさい」「はーい、いってきます」みたいな日常会話が繰り広げられてるんでしょうか(笑)
きっと「現在のアズエー湖付近」と「15世紀のパリ」は何らかの理由でリンクがはられてるんですよ。時間や距離など意に介さないのが超常現象。あの世は過去と現在と未来が同時に存在するらしいし(by白眼子さま)。

これらの話のすごいところは、同じような体験を複数の人がしているというところですね。
比叡山は山岸先生とアシさん。木造の建物はYさんと松島トモ子。15世紀のパリはサンダーソン博士と奥さん(側にいた助手さんにはパリは見えてなかったらしい)。
この世にはそんな不思議な場所がきっとたくさんあるんですね…。私も一生のうち一度はそんな不思議体験できるのかしら。煙草に火をつければ解けるらしいし、私も一度くらいは狐に化かされてみたいものです。本気です。でも幽霊見てみたいって言う人に限って霊感さっぱりなんだよね…。

押し入れ

Category:山岸凉子

押し入れ
1997年

押し入れ(AmieKC)』(講談社)
押し入れ(KCデラックス)』(講談社)※上の復刻
に収録。



山岸先生が美内すずえ先生から聞いた「他人のフンドシ」恐怖話。
なんか押し入れとか箪笥ってむやみに怖いイメージないですか。特に押し入れって、子供の頃閉じ込められた記憶もないのにすごい怖い。

美内先生のアシスタントさんが、同居してるお姉さんと一緒に体験した恐怖とは!?
まずメインの前に不思議な出来事が2点。

1.押し入れの襖がいつの間にかうっすら開いていることがよくあった。
2.仕事から帰ってくると薄暗い部屋の中でコタツが赤く光ってることがよくあった。

日用品関連の怖い話来た! うっすら開いた襖ってなんか怖いよね!
暗闇で赤く光るコタツもいいですね。その部屋の幽霊さん、視覚に訴えてきてますね。
そんなことが何回かあって……
ある晩、姉妹二人で眠っているといきなりお姉さんが飛び起きて叫ぶのです。

「いる! だれかいる。押し入れの中にだれかいる!

夜は家にいないことが多い妹と違って、お姉さんの方は押し入れのおかしさに気づいてました。
「押し入れの隙間から女の人の目が見える」とか怖すぎる…!(これが男の人の目だったら別の意味で怖いけど)
ちなみにオチは「昔その部屋で女の人が殺されて押し入れに死体が入れられていた」という、典型的なものでした(山岸先生も言ってますが)。やっぱあるんだそういう話。

でも「コタツがついていた」ってのは何なんだろう?と読者が思った頃、
「もしかしてその死体を包んでいた布団って コタツ布団だったりして!!」
とか言い出す山岸先生!
本当かどうかはこの話では明らかにはなってませんが、推測が的確すぎ(笑)

読者からのゆうれい談

Category:山岸凉子

読者からのゆうれい談
1983年

山岸凉子全集〈17〉ゆうれい談(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
ゆうれい談(MF文庫)』(メディアファクトリー)
あはは、まんが』(角川書店)
に収録。



73年の『ゆうれい談』から10年の時を経て、続編。
当時『ゆうれい談』を発表した後に山岸先生へ届いた、「霊的体験を綴った、おびただしい数のお手紙」の中からいくつかピックアップされた怖い話です。3話しか入ってないです。短い。
かくれんぼをしていた女の子の「箪笥の中に誰かの手が…」という話が怖かったです。
実話・創作に関わらず、昔から「箪笥」とか「押し入れ」といった収納にまつわる怖い話は多い気がします。…人が入ってそうな大きさだからかなぁ…(そのまんま『押し入れ』という山岸作品もアリ)。

でも、ここで紹介されている「読者のゆうれい談」を、全て読み切らないうちに処分してしまったらしい山岸先生。
「あまりにあまりに恐くて読み進む事ができなかったのです!!」
「そんな話のつまっているダンボール箱が不吉で不吉でたまらなかったのです わたし」

わたしの人形は良い人形』を読んだ私の知り合いと同じこと言ってますよ! 先生!
読者からのゆうれい談に恐れおののく作者が描いた恐怖マンガでまた恐れおののく読者が生まれるなんて、この世って不思議だなぁ…。まさに、恐怖は天下の回りもの(ちょっと意味違う)。
「もう金輪際 読者の皆さまの体験談なぞ要求したりいたしません!」
山岸先生は幽霊的なモノをわりと見るタイプなのにも関わらず(そして恐怖ものをよく描くにも関わらず)フツーに怖がりなところがどうにも親近感を覚えてしまいます(笑)。

ゆうれい談

Category:山岸凉子

ゆうれい談
1973年

ゆうれい談(セブンコミックス)』(小学館)
山岸凉子全集〈17〉ゆうれい談(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
ゆうれい談(MF文庫)』(メディアファクトリー)
に収録。



山岸先生がマンガ家仲間から聞いた「幽霊談」一挙公開。
「手ぬぐいを巻いた幽霊」「柳の精霊に恋された姉」「幽霊に脚を引っ張られて膝がはずれた少女」「窓を叩き続ける左手」…。
実際にあった怖い話、それと私の好きな「不思議で奇妙な話」もちゃんと入ってて嬉しいです。
やっぱり「怖い話」は怖い! 特に「石垣の上を走る少年」の話が絵面的に怖いです。「国分寺の石垣の道」だそうですが、まだあるのかなー。怖いもん見たさで行ってみたい。
「大島弓子が予知夢を見る」という話はなぜか納得してしまいました(何となく大島先生は予知夢見そうなイメージある)。

話と関係ないですが、歌いながらマンガを描くシーンで「バビル2世の主題歌を歌うアシさん」が「年をくっているのにナツマンではない」と書かれているのにびっくりしましたよ。さすが70年代。貸本屋も出てくるし。
この頃は山岸先生の絵もまだ線が太くて若干コミカルで、後の鬼気迫る恐怖絵ではないのがありがたいです。続編の『読者からのゆうれい談』は線が細くてだいぶ怖い…。

しかしささやななえ(現:ささやななえこ)の「おにぎりの中身を当てる能力」は「羨ましい!」の一言。こういう特殊能力欲しいなぁ。

パエトーン

Category:山岸凉子

パエトーン
1988年

パエトーン(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 ブルー・ロージス(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈6〉夏の寓話』(潮出版社)
に収録。

現在潮出版社のWEBサイトで無料公開中→http://www.usio.co.jp/html/paetone/index.html



全世界を震撼させたチェルノブイリ原発事故。そして、日本にも続々と作られている原子力発電所。その恐ろしさも知らず、人類は制御できない日輪の馬車を駆っている愚かな「パエトーン」と同じなのではないだろうか? 原発への問題提起作品。


チェルノブイリ原発事故の2年後に描かれた作品です。社会派マンガなので進行は山岸先生本人が担当。
「水の豊富な我が国で水力・火力以外の電気が必要なのかしら?」
かねてより疑問を抱いていた山岸先生は、チェルノブイリの事故のあと原発について調べ出します。それに基づいて描かれたこの作品は読み終えるとゾクッとするほど恐ろしいです。特にチェルノブイリ事故の報告がすごい怖い。チェルノブイリも事故が起きる前までは日本と同じく「絶対安全」と言われていたかと思うと…。

この作品が描かれてから23年後、今回の東日本大震災で福島第一原発はあんなことになってしまいました。福島出身の母をもつ私は本当に心が痛みます。
作中に出てくる「実は日本の電力は原発なしでもほぼまかなえている」という話はにわかには信じがたいことでしたが、一部の人のお金儲けのためにあの危険なものがこの狭い日本に次々と作られているかと思うと溜息が出ます…。とても世界で唯一原爆落とされた国とは思えませんよね。
人類は今までにいろんなものを発明し、いろんなものを支配できるようになったけど、原子力を操ろうとするのだけはもう諦めてほしいなぁ…。だって危ないもん。

「みなさんも こんな事考えたりしませんか? たとえば好きな映画やアニメの中での事
核戦争が終わって何もかも失った世界で雄々しく活躍する少年や少女と自分をダブラせたり……とか
それが核戦争なのか原発事故なのかわからないけど 放射能におかされる時代がくるとすればこれからなのよ
ひどい目に遭うのはこれから! わたしでありあなたなのです
核戦争後に生まれるヒーローヒロインに わたし達は決してなれないのです」

HOME

柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。