裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

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メタモルフォシス伝

Category:山岸凉子

メタモルフォシス伝
1976年

メタモルフォシス伝〈1〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
メタモルフォシス伝〈2〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子全集〈22〉メタモルフォシス伝(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
メタモルフォシス伝(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈14〉メタモルフォシス伝』(潮出版社)
に収録。



もうれつ受験校にあらわれた おかしなあいつ
蘇我要の行くところ 風が起これば雲を呼び 花の嵐がきにかかる


都内の某受験校にある日転校してきた不思議な少年・蘇我要
毎日勉強勉強でピリピリしている学校で、それぞれに問題を抱える久美新田小山大田原
蘇我はその不思議な力で、彼らを、学校を、少しずつ変えていく。
全国の高校(ハイスクール)の受験生よ! 転身(メタモルフォシス)せよ!!


「歳をとりたいとは思わないけれど 試験や宿題のない歳になりたいなあ」
「答を求められたなら それに答えるよう万全を期さなくちゃならないのさ」
「入ってから考えます。いまはただ勉強するのみです」
「こっちは花よめの持参金がわりに大学いくんじゃないんだからな」
「ねえあなた こわくないの いまこの2時間にも他の連中はせっせと勉強してんのよ」

不思議な能力を持ったあっかるい謎の少年・蘇我要を狂言回しに、日本の受験のあり方や学校教育制度に対して疑問を呈する、短気連載作品。
問題提起の内容は昔から多くの人が抱いているのとほぼ同じだと思うので割愛するとして、(←私自身、幼少時に日本の学校教育に疑問を抱いて小学校退学したりしてるので、語りだすとものそい長くなってしまうので…)
ストーリーの主軸は、厳しい受験・テスト・宿題に心の底では疑問を抱きつつも、目の前の受験を突破するために朝も夜も勉強せざるを得ない登場人物たちの問題を蘇我が解決する、とかなんかそんなかんじです。

・自他ともに認める劣等生だけど、人間的感覚は多分一番まともな久美(本来文系なのに親の期待に反発できず理系を選択)。
・クールな優等生だけど家庭に問題を抱える新田(テストのあり方がおかしいのに気づきつつ好成績を収めるバランス派?)。
・本当は音楽が好きなのに、周りの呪文に流されるままにぼんやりT大受験を目標に据える小山(しっかりしろ)。
・典型的な学歴至上主義で嫌われ者のガリ勉眼鏡、大田原(しぬな)。
・新田と同じく、割り切って自分の目標のために勉強に励む紅子(唯一、最初と最後でそんなに変化なし)。

冒頭ではみんなこんななので、読んでてモヤモヤ。でも蘇我くんの活躍で徐々にみんなも読者もスッキリしてきます。
私が感情移入するキャラはやっぱり劣等生の久美(クネ)かな。
他の山岸作品にもよく出てくる気弱で自信のない性格で、元々文系なのに親に反抗できず苦手な理系を選択し続け苦しむ少女。
文学や美術や音楽や美しい風景なんかに感動する豊かな感受性を持っているのに、自分の意見をハッキリと言えず、周りに流され、よりによって自分の長所を全然生かせない医学部に進学すべく頑張っちゃう(でも劣等生)という、すごい辛そう&もったいない子だったのですが、蘇我くんのおかげで変わります。がんばれ。
勇気を出して数学・物理の講習を受けなかった久美が、学校を散歩して蘇我と会話するシーンが好きです。

こうしてひとまわりしてみると 学校もいいところなのねえ
あのドングリの幹の影もステキだし 花壇だって それに…
今までぜんぜん気づかなかった (中略) なんだか泣けてきちゃう
あたしってバカみたい こんなことに気がつく心のゆとりもなかったなんて
あたしって学校には勉強以外 なあんにもないって思ってた
今 あたし16歳… もうすぐ17歳になっちまう
二度とこない16歳に 勉強だけしか見つめてなかったなんて! あたし泣けちゃう


「見てごらん あの暗くて暑い教室でみんなのやってること
きっと きみの今の気持ちに気がついていない人もいっぱいいるんだよ
もしくはわかってても 頭の中だけで……かな
今のきみのように泣けるほどそのことに気がついてる人は少ないよ きっと
ずっと大人になってから くやしい思いをしながら気がつくんだ
今気がついたきみはしあわせだね


「不思議ねえ あなたって… ずいぶん人の心を理解してくれるのねえ 乙女の感傷って言っただけなのに」
「こういうことを理解することを教室では教えてくれないよね
あそこでは点数をより多く取る人間が頭がよくて値打ちがあるんだ
それが間違ってるとは言いきらないけど ただ 人間 それだけじゃないよね」

「ええ!」

でもこの後、久美はそのことを紅子に話したら逃避とか言われます。
この紅子って子が何気にくせ者で! この作品の中で唯一あんまり成長のないキャラなのですが、変わるほど元々問題のあるキャラじゃないといえばそうなんですが、なんかこう、実際の学生の中にいそうな絶妙にリアルなキャラクターなんですよね。
目標のために勉強は頑張るし、成績も良い。受験に意味があるのかはわからない。今はただ、目の前の受験を突破するだけ。
受験への疑問や、ましてやそれを変えるなんて大層なことは未来の人々にお任せします。
今この受験戦争まっただ中に疑問を呈するなんてのは逃避・敗北でしかないわ。という、こういった論調でいつも久美の発言や久美が気づいた感動を悪気なく否定したりします。
久美も、クールかつ理路整然とした紅子の言い分に上手く反論できずに口ごもってしまう。
だがそもそも久美と紅子は真に意思の疎通ができているのか? このモヤモヤするかんじ、実際に人と話しててもよくあるなぁ…。
個人的にこの作品で一番モヤモヤするのは久美と紅子の会話のシーンです。こいつらなんで親友なんだろう…。
まあとにかく、久美がんばったよね。
私 医学部へ行くのとは違う形で親孝行しますから…

あとは小山が多少しっかりしたり、大田原の勉強ノイローゼを蘇我が何とかしたり。新田の心の闇を何とかしたり(なげやり)。
蘇我の暗躍のおかげで新田がお兄さんに少し優しくなるとこ好きです。あのお兄さんそんなに悪くないよね。

蘇我くんのもうれつ受験校改造計画、最後のシメは学校祭の麻雀同好会設立。
最も難関と思われた教師陣の懐柔を一日で完了するとは…。蘇我、おそろしい子!

「ぼくはこれからもずーっと きみたちといっしょだよ 一生」
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ブルー・ロージス

Category:山岸凉子

ブルー・ロージス
1991年

自選作品集 ブルー・ロージス(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



「わたしぐらい役立たずの人間はいないわ。
気はきかないしグズだし なにをやってもドジだったのよ」

黎子(たみこ)
は男性と付き合ったことがないまま30歳になろうとするイラストレーター。
子供の頃に親からかけられた呪文のせいで自分に自信が持てずにいた黎子だが、ある時男性編集者の和久と出会ったことで、黎子の人生は少しずつ変わりはじめる。


私が山岸先生のマンガを読むようになったのは、母の本棚に山岸凉子(他24年組)の単行本が何冊かあったのがきっかけなのですが、何冊かあった単行本の中にこの『ブルー・ロージス』が入ってたんですね。
最初に読んだ時、私はまだ小学5年生くらいで、その時の感想は「主人公に彼氏ができて? 料理が上手くなって? …で、別れて終わり? 地味な話だなー」というかんじで、全然ピンときてませんでした。
でも20歳を過ぎた頃に読み返してみたら…すごい染みたんですよ。
子供時代、出来の良い妹(明子)と比べて親から褒められることがなかったせいで自分に自信の持てなかった黎子。大人になって初めての恋人にありのままの自分を認めてもらえて、愛情込めて褒められたことによって自分を認められるようになり…。

「安心して。黎子さんそんなにドジじゃないって。
もっともドジの黎子さんも可愛いと思うけど」


わかる! わかるよ今なら黎子の気持ちが! そう、人は褒めてもらえないと自信なんか持てないの! 子供の頃に与えられなかった「自信」を、大人になってからようやく与えられた黎子…。山岸先生の「救済系」(←勝手にこう呼んでいる)はいつもじーんとくるなぁ…。
和久さんと別れた後、彼に褒めてもらった料理を自信を持ってチャカチャカ作る最後のシーンなんか泣けます。

これはあの人から与えてもらったものだ……
どんな料理もおいしいと言って食べてくれるから
気がついたら自信をもって料理することができるようになっていたんだわ
そうか 明子のあの自信が子供の頃与えられたように
わたしは得そこなった自信をあの人に与えてもらったんだ


この話は「喪女黎子」「自信なし黎子」というふたつのテーマがあると思うんですけど、私は「自信なし黎子」の物語にすごいグッときちゃったので、和久さんが実はちょい二股だったとか、黎子が傷つきたくなくて目を背けていたとか、男女の恋愛沙汰がどうこうなるあたりはわりとどうでもよくなっちゃいました。でもまた数年後読んだら違う感想が出てくるのかも。
(この二人は結婚してないので「不倫」とは言いませんが、一応主人公が浮気されてるので「不倫」タグつけておきます↓)

それにしても「線の細い植物的な男性」のイラストが売りだった黎子が、男を知った後にはその絵が描けなくなった…というくだりは無駄に生々しい(笑)
星の素白き花束の…』の聡子さんの時も思ったけど、絵柄変わった後のイラストちゃんと売れてるんですかねー。心配。

木花佐久夜毘売

Category:山岸凉子

木花佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)
1986年

瑠璃の爪(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 月読(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



わたしの名前は姉がつけました 典子…と

高校生の典子には3歳上の姉がいる。姉の咲耶は子供の頃から優等生で、両親は咲耶ばかり可愛がっていた。
さらに自分の名前「典子」まで「たった3歳の咲耶が名づけた」という自慢話の種にされ続けた典子はすっかりひねくれてしまっていたが…。


山岸先生だってたまには人死にの出ない姉妹ものを描くよ!ということで、木花佐久夜毘売です。
「美人ではないけど優秀な姉」と「美人だけど不出来な妹」という構図は『瑠璃の爪』と同じタイプですね。親が偏愛する対象が逆ですが、どっちも妹が主人公。
姉ばかり愛される家庭で育ち、すっかり不良娘になってしまった典子。いつもどおり夜遊びをしていてエロ親父にからまれた典子を助けてくれたのは偶然にも、咲耶の元同級生・飛渡でした。

「あたしは姉さんとは違って頭悪いから 勉強なんか大嫌い!」

ここで典子が飛渡くんに話す昔話(典子がテストで100点取ったことを姉さんのおかげということにされた)から察するに、咲耶は普通に性格悪そうなんですが…。クスッて…。咲耶さん、家での評価はさておき学校に友達いるのかしら。心配。

飛渡くんは典子の名前に対するコンプレックスがわかります。何故なら彼の名前「圭」も、死んだ兄の名をそのままつけられた名前だからです。

「姉さんにつけてもらった名前…それ自体はいいんだ。
それはすばらしい事だよ。すばらしい……だけど そこにきみがいない。
そこには3歳で妹に名前をつけた天才の咲耶さんはいてもきみが…きみの存在が…」


初めて自分のことをわかってくれる人に出会えた典子は泣き崩れ…。
それ以来、典子は子供の頃からの辛かった話を全て飛渡くんに話すようになります。
このお話は「姉妹もの」には珍しくちゃんと救済者が現れるのでハッピーエンドになります。最後の新幹線のシーンのしおらしい典子がかわいい。

わたしでも木花佐久夜毘売になれますように

このお話を読んで思ったんですが、『鬼子母神』の瑞季ちゃんといい、山岸作品の「兄弟姉妹と比べられる」系の主人公の場合、ちょっと一時期グレてた子の方がその後の人生うまくいってる気がします。両親の言うこと真面目に聞いてないで、てきとーに反発しちゃった方がいいのかも知れませんね。二人とも家での評価はダメ人間でも学校ではそこそこ人気者だったし。
家庭で顧みられない子が外の世界に居場所作れてる描写を見ると安心します。『常世長鳴鳥』の雪影なんかそれすらなかったもん…。

スピンクス

Category:山岸凉子

スピンクス
1979年

スピンクス(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子作品集〈7〉傑作集1 スピンクス』(白泉社)
山岸凉子全集〈27〉クリスマス(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子恐怖選〈3〉千引きの石(ハロウィン少女コミック館)』(朝日ソノラマ)
自選作品集 ハトシェプスト(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



その頃僕は魔女の館に住んでいた

「僕」は魔女の館に住んでいた。「僕」は真っ白な部屋に来る日も来る日も立っていた。
毎日毎日「スピンクス」がやって来て「僕」に質問をする。声も出ず体も動かせない「僕」は「スピンクス」に弄ばれる。


山岸作品は父親・娘の近親相姦を描いた作品はやたら多いですが、この作品は珍しく母親・息子の癒着を描いています。
「しゃべりたいのにしゃべれない」「動きたいのに動けない」「紙でできた食べ物を無理矢理食べさせられる」「ぐっしょり濡れた毛布」など、「僕」=アーチーの悪夢が本当に感覚的で気持ち悪い。

どぎつい顔に大柄な裸体、尖った赤い爪を持ったライオンという、アーチーの恐怖を具象化したような「スピンクス」として登場するのは彼の母親。ねめ回すような目つきがいやらしい。
スピンクスが作った紙人形がアーチーの体を舐め撫で回すシーンはかなり性的なイメージ。

恐怖と嘔吐しそうな嫌悪で一杯になりながら
僕は彼女に抱かれる

地獄だ地獄だ!
(それでも彼女の腕は暖かい)
声があるなら叫びたい 涙があるなら泣きだしたい
(それでも彼女の胸は暖かい)


後半は壁画の中(病院)。母親がスピンクスだったり病院がエジプト壁画だったり、アーチーの精神世界はエジプト仕様。
ある男の人が出てきてアーチーに優しく話しかけてくれるのですが、アーチーは恐ろしいスピンクスの言うとおり、その人を無視しなければいけません。
自分を助けてくれそうな男の人に感情が伝わらないことに心底悲しむアーチー。

「おまえが生きていけるのはここだけ。
おまえが生きていけるのは この私とだけよ」


淫らな母親と子宮の中の胎児、ドアの外の開かれた宇宙…の絵がなんかすげー!

この話は冒頭からアーチーの心地悪い目線でずっと進んでいたので、アーチーが優しい男の人・ブロンクス医師に気持ちを伝えることに成功するハッピーエンドでよかった!

「あのスピンクスはだれ?」
「あれはきみの愛情と憎悪 不安・混乱」
「なに? なんて言ったの」
「ううん きみの不安がああいった形で見えたんだよ」

あの陽光の中に時々かげって見えるのは あれは…
そうだ 今は少しもおそろしくない魔女……スピンクス


光溢れる、妙に爽やかな終わり方が印象的です(同じ近親相姦話でも父娘系はけっこう気味の悪いかんじで終わる作品が多い気がするので…)。

シュリンクス・パーン

Category:山岸凉子

シュリンクス・パーン
1976年

メタモルフォシス伝〈2〉(花とゆめコミックス)』(白泉社)
シュリンクス・パーン(ロマンコミック自選全集)』(主婦の友社)
山岸凉子作品集〈9〉傑作集3 黒のヘレネー』(白泉社)
黄泉比良坂(ボニータコミックス)』(秋田書店)
山岸凉子全集〈30〉愛天使(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
自選作品集 シュリンクス・パーン(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈5〉天人唐草(あすかコミックス・スペシャル)』(潮出版社)
に収録。



その一 オールド・バターシー・ハウスの所有者となる者は必ず当館に居住すべし
その二 パーン一匹飼育すること


大学を卒業したばかりの新人小説家オシアンは、亡くなった叔父の屋敷を受け継ぐが、そこにはシュリンクス・パーンと名乗る謎の少年がいた。
オシアンとシュリンクスは奇妙な半同居生活を始める。


山岸先生お得意の、神話から想を得た短編。
面倒見のいい兄ちゃんのオシアンが牧神パーンの面影を持つ中性的な少年シュリンクスにプリンを食べさせてやったり文字を教えてやったりする、どちらかというとほのぼの系のお話です。ラストは(予想してたけど)とある事実が発覚してハッピーエンド。

私的には話に登場しないにも関わらず濃いエピソードを残す変人チャールズ叔父という人物の方が気になってたりします。30年間家から出なかったりシュリンクスに自分の厭世観すり込んだり自分をパーン族という設定にしたり人間を一匹と数えたり…。いいキャラしてるぜチャールズ叔父。

オシアンに出会うまで、偏屈者のチャールズ(大きいパーン)に飼育されていたシュリンクスの
「人に愛してもらえない人間をパーンっていうんだって」
という言葉が物悲しいです。結局この子の出自は出てこずじまいでしたね。

それにしても山岸先生は妖精っぽいヒラヒラした絵を描くのが上手い。
山岸先生の描く半分裸みたいなギリシャ神話系の衣装が好きです。

赤い髪の少年

Category:山岸凉子

赤い髪の少年
1973年

赤い髪の少年 (サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子全集〈31〉黒のヘレネー(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈13〉妖精王3
に収録。



「なぜ彼のことをにんじんと呼ぶのです? 髪が赤いからですか?」
「あの子の心ときたら髪よりすごい色なんですのよ」

大学院生のエマニュエルは従兄の息子のステファヌと出会う。
「にんじん」と呼ばれるステファヌは母親から虐待を受けていた。


ジュール・ルナールの『にんじん』を元に描かれた作品です。
夫との不仲による苛立ちを息子にぶつける母親がひどい! ステファヌの失くし物をこっそり隠して「さがしておいで。見つけるまで家に入れませんよ」とか、楽しみにしてた芝居に一人だけ行かせないようにしたりとか…。
本当に実の母なのかと疑うほどの陰湿な虐待。暴力は振るわなくとも、こういうネチネチしたいじめも充分酷いですね。他に兄姉が二人もいるのに、なぜか末っ子のステファヌ一人が標的になっているあたり、リアルです。父親も何とか言ってやれよ…。

どうしてこんな目にあわなくちゃいけないんだ
ママはぼくが憎いんだ 憎いんだ!


大好きだったはずの猫を発作的に殺してしまい、「だれもぼくを愛してなんかいない」と泣きじゃくるステファヌを暖かく受け止めるエマニュエル。いい人です。目指せ『籠の中の鳥』でいうところの人見さんのポジション。
自分の悲しみを自分より弱い者(猫)にぶつけて殺してしまった今のステファヌと、ステファヌのママは同じなのだとエマニュエルは言います。

「悲しみや苦しみをうまく処理できない人っているんだよ。
きみはあのネコが好きだっただろ。だけどあのネコはきみをうらんじゃいないと思うよ。
きみの悲しみを知っていただろうから きっときみを許してくれてるよ。
ママだってきみを憎んであんなことをするんじゃないんだ。
こうせざるをえないんだよ。悲しい人なんだよ」


「ママのこと まだよく理解できないけど…
でも おじさんがぼくを愛しててくれるんだったら……
それだけをたよりにぼく やってみるよ」


小説の『にんじん』には、このエマニュエルおじさんという「救い」は出てこないようですね。
原作読もうかな。

ティンカー・ベル

Category:山岸凉子

ティンカー・ベル
1973年

ティンカー・ベル(サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子作品集〈8〉傑作集2 ティンカー・ベル』(白泉社)
山岸凉子全集〈26〉天人唐草(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



「彼女に会うと いやなことはみんな忘れるわ。
小さな時からずっと彼女だけが友達だったの」


ダフニーのたった一人の友達は、小さい頃から側にいたティンカー・ベルだけだった。
ダフニーが悲しい時、ティンカー・ベルだけがいつも彼女を慰めてくれていたが…。


山岸凉子初期の青春物語。
小さい頃から美しい母・姉妹と比べられて育ったダフニーは、妖精のティンカー・ベルとしか会話をしない孤独な15歳。
『ピーターパン』に出てくるティンカー・ベルとは違って等身大なティンクが新鮮です。

クラスメイトの兄であるギーは、ひょんなことからダフニーを気にかけ始め、初めは心を閉ざしていたダフニーも、ギーの優しさに少しずつ心を開き始めます。
このギー兄ちゃん、ただの優しいハンサムではなく、わりとひょうきんキャラなところが良いです。

「いるんだよ。きみにだけ」
「あたしにだけ!?」
「そう…きみには必要だった。だれかが。
きみをすこしもかなしませないだれかが。
だけどこれからは そのだれかとはティンカー・ベルじゃだめなんだ」


ギーと仲良くなるにつれ、ダフニーの目にはティンカー・ベルが見えなくなっていきます。

最後は火事の中に取り残されたギーをティンカー・ベルが助けてハッピーエンド。
「たしかにティンカー・ベルはいたよ。ダフニー」
「まあいいのよギー。話を合わせてくれなくても。あなたにいわれてよくわかったの あたし。
あれはやっぱり あたしの心がつくったものなんだわってね」

「ダフニー きみにはもうティンクの姿が見えないんだね」

ダフニーの周りに吹き抜けるのはティンカー・ベルの金粉ではなく青春の清風…。
自分の容姿に自信がないダフニーが学園祭で初めてドレスを着て口紅をつけるシーンが結構好き。

ラプンツェル・ラプンツェル

Category:山岸凉子

ラプンツェル・ラプンツェル
1974年

ティンカー・ベル(サンコミックス)』(朝日ソノラマ)
シュリンクス・パーン(ロマンコミック自選全集)』(主婦の友社)
山岸凉子作品集〈8〉傑作集2 ティンカー・ベル』(白泉社)
山岸凉子全集〈29〉ダフネー(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈11〉妖精王1』(潮出版)
に収録。



「マ ママン あたしはみにくいの?」
「そうよミケティ 外にでたらころされるわ」

植物学者のオクターヴは、塔の中に住む美しい少女ミケティと出会う。
ミケティは母親に「おまえは醜い」と言われ続けながら育てられていた。


山岸先生初期の親子愛憎もの。
初期なのでまだ絵は少女マンガしてますが、母親が娘に「おまえは醜い」という暗示をかけ続け、小さい頃から塔の中に監禁して育てる…というダークな設定はさすが山岸先生です。

「おまえをかわいいというのはママンだけよ。
おまえを愛しているから
ママンだけがおまえをかわいいといってだきしめてあげるのよ。
ほかのだれもおまえをだきしめてくれないのよ」


自分が世界で一番醜いと信じ込んでいるミケティ(ラプンツェル)の元にオクターヴ(王子さま)が現れ、「きみは本当は誰よりも美しいんだよ」と言って暗示を解いてくれるという比較的単純なストーリーながら、
昔、自分の婚約者を奪った美しい妹とミケティ(本当はその妹の娘)を重ね合わせ、「憎くてかわいい…あたしだけのミケティ」と愛憎入り混じった感情をぶつける母親の死に様はなかなかです。

美しすぎることは もっとも幸福になるか
もっとも不幸になるかの どちらかなのだから
あたしはそのどちらも おまえにのぞみはしない!
幸福になること…も!


オクターヴは「どこの世界に自分の子を醜いと言って育てる母親があるもんか。ミケティは妹さんの子なのですね」と言ってますが、今の山岸先生だったら産みの母親でも平気で描くと思います。
白雪姫の母親だって原話では実の母だし。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.

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