裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

「男女」タグのついた記事一覧

雨女

Category:山岸凉子

雨女
1994年

押し入れ(AmieKC)』(講談社)
押し入れ(KCデラックス)』(講談社)※上の復刻
に収録。



「お母さん あのおじさん 長い物を引きずってるよ」

三田数良はその恵まれたルックスで数々の女を物にし、金目的で手にかけてきた。女たちの愛と怨念に取り憑かれることになるとも知らずに…。


主人公の女性はおそらくジェイン・ドゥさんこと千鶴子さん(作中では名前が出てきません)。自分が数良に殺されたことに気づかず、数良を見つめ続ける。
この千鶴子さん、ところどころのコマでさりげなーく首に布が巻き付けられています。山岸先生ってたまにこういうことしますよね。『汐の声』のロングのシーンの床のアレとか。あれはびびった…。
この作品は出てくる幽霊二人とも自分が死んだ自覚なしで勝手に動いてて変なかんじ。

三人目の女・よし子も殺してしまう数良。でもマスコミに対しては涙で応答してみせます。演技派です。一方その頃、千鶴子の遺体が発見されます。
今まで視点キャラだった千鶴子が一瞬で「ゴミ袋に詰められた死体」になったシーンはけっこう怖かった…。なんかね、「人を脅す気のない幽霊」って怖い…。黒いゴミ袋の中で正座ですよ?
冒頭の「立てない!?」のシーンの変な外枠はゴミ袋だったんですね…。あの頭をつかえてつんのめった体勢の意味がここでようやくわかるという。

マスコミに囲まれながら帰宅する数良。数良のうしろから「長い物」が繋がっていることに、近所に住む少女だけが気づく。

罪が暴かれようと暴かれなかろうと
彼は“長物”を引きずっている
これが人間に憑く背後霊の中でも もっともたちの悪いものだそうな


さて、「三田数良」の元ネタこと三浦和義は2008年に留置所で首を吊った状態で死んだわけですが、自殺であれ他殺であれ事故であれ、「長い物」が首にグルグル巻き付いて死んだ…と考えると何だか辻褄が合ってて恐ろしいですね!(首つりに使われたのはTシャツらしいけど)
前にテレビかなんかで見た霊能力者も「三浦和義には女の長い髪の毛がグルグルまとわりついている」的なことを言ってたし。怖いよー。

でもこのマンガに出てくる三人の女の霊は「呪ってやる!」という恨みの気持ちは描写されておらず、自分が死んだことすら気づかず、ただ数良の後にズルズルついて行くだけの存在なんです。単なる恨みの感情より、こういう「愛だか怨念だかもうよくわからない強い執念」ってのが一番怖いと思うのです。

ブルー・ロージス

Category:山岸凉子

ブルー・ロージス
1991年

自選作品集 ブルー・ロージス(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



「わたしぐらい役立たずの人間はいないわ。
気はきかないしグズだし なにをやってもドジだったのよ」

黎子(たみこ)
は男性と付き合ったことがないまま30歳になろうとするイラストレーター。
子供の頃に親からかけられた呪文のせいで自分に自信が持てずにいた黎子だが、ある時男性編集者の和久と出会ったことで、黎子の人生は少しずつ変わりはじめる。


私が山岸先生のマンガを読むようになったのは、母の本棚に山岸凉子(他24年組)の単行本が何冊かあったのがきっかけなのですが、何冊かあった単行本の中にこの『ブルー・ロージス』が入ってたんですね。
最初に読んだ時、私はまだ小学5年生くらいで、その時の感想は「主人公に彼氏ができて? 料理が上手くなって? …で、別れて終わり? 地味な話だなー」というかんじで、全然ピンときてませんでした。
でも20歳を過ぎた頃に読み返してみたら…すごい染みたんですよ。
子供時代、出来の良い妹(明子)と比べて親から褒められることがなかったせいで自分に自信の持てなかった黎子。大人になって初めての恋人にありのままの自分を認めてもらえて、愛情込めて褒められたことによって自分を認められるようになり…。

「安心して。黎子さんそんなにドジじゃないって。
もっともドジの黎子さんも可愛いと思うけど」


わかる! わかるよ今なら黎子の気持ちが! そう、人は褒めてもらえないと自信なんか持てないの! 子供の頃に与えられなかった「自信」を、大人になってからようやく与えられた黎子…。山岸先生の「救済系」(←勝手にこう呼んでいる)はいつもじーんとくるなぁ…。
和久さんと別れた後、彼に褒めてもらった料理を自信を持ってチャカチャカ作る最後のシーンなんか泣けます。

これはあの人から与えてもらったものだ……
どんな料理もおいしいと言って食べてくれるから
気がついたら自信をもって料理することができるようになっていたんだわ
そうか 明子のあの自信が子供の頃与えられたように
わたしは得そこなった自信をあの人に与えてもらったんだ


この話は「喪女黎子」「自信なし黎子」というふたつのテーマがあると思うんですけど、私は「自信なし黎子」の物語にすごいグッときちゃったので、和久さんが実はちょい二股だったとか、黎子が傷つきたくなくて目を背けていたとか、男女の恋愛沙汰がどうこうなるあたりはわりとどうでもよくなっちゃいました。でもまた数年後読んだら違う感想が出てくるのかも。
(この二人は結婚してないので「不倫」とは言いませんが、一応主人公が浮気されてるので「不倫」タグつけておきます↓)

それにしても「線の細い植物的な男性」のイラストが売りだった黎子が、男を知った後にはその絵が描けなくなった…というくだりは無駄に生々しい(笑)
星の素白き花束の…』の聡子さんの時も思ったけど、絵柄変わった後のイラストちゃんと売れてるんですかねー。心配。

蜃気楼

Category:山岸凉子

蜃気楼
1990年

パイド・パイパー(ユーコミックスデラックス)』(集英社)
パイド・パイパー(MF文庫)』(メディアファクトリー)
自選作品集 タイムスリップ(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
に収録。



若く美しい愛人を得るというのは やはり男なら1度は見る夢なのだ

昌彦
は結婚して5年目の妻・春枝と一人娘をもつ、ごく普通の会社員。
しかし昌彦には星子という愛人がいた。妻と愛人、どちらにも優しくバランスよく付き合っているつもりの昌彦だったが、その均衡は少しずつ破られていく…。


「不倫する男」がテーマになることが本当にやたらと多い山岸作品ですが、「不倫する男」の目線で描かれたお話は珍しいのではないでしょうか。
穏やかで優しい妻・春枝と安定した家庭をつくり、わがままで子供っぽい星子と男女の関係を楽しむ…タイプの違う二人の女を愛する充実感に満ちた生活を送る昌彦。
家族サービスの合間に愛人サービス、スケジュールを組んで嘘をついて仕事もして…と、えらくハードな昌彦の生活。私が男だったらこうまでして不倫したくはないですが本人が幸せならしょうがない。

このふたつの愛のうち どちらかが欠けても耐えられない
以前よりも仕事は順調だし 気力にも張りがある


昌彦は「今の僕には妻も星子も幸せにする自信がある」という『アリエスの乙女たち』の高志さまのような理想を掲げてますが、星子も春枝も昌彦が思うほど甘い女ではなかった。
昌彦の他に恋人をつくっていた星子はいきなり「自分がやられて厭なことは他人も厭なんだという事わかった?」と、昌彦に対して小学校の先生のお説教のようなことを言い出します。言える立場か!? やっぱり結婚してくれないことを恨んでたんでしょうか。慌てる昌彦。

星子には充分贅沢をさせている 仕事も割りのいい仕事を回している
睡眠時間をさいてまで できる限りの我が儘も聞いてやったじゃないか だからこそ!
だからこそ? い、いや違う 愛しているからだよな


その自分の愛の見返りを期待してるところがエゴなんだよ昌彦…。
スカッとするのは穏やかで貞淑で何も知らないと思われていた妻・春枝が探偵を雇って夫を監視してたところ。包容力のある心優しい女だと思って甘く見ていたな昌彦。
しかし不倫がバレた昌彦の謝罪の言葉もやっぱり無意識のエゴで固まっていて腹立ちますね。ラストの憔悴しきった顔を見るとちょっとザマミロという気分。

「すまない きみを…傷つけるつもりは…」
「傷つける? そういう言い方はやめてください。あなたは自分が傷つくのがいやなのよ。
あなたは自分のエゴが認められない 自分を悪者にしたくないのよね」


不倫していたからといって昌彦が「極悪非道な人間というわけではない、ごく普通の優しい男(ひと)」というところはリアルですね。実際はそんなもんだ。
「だからわたし わからなくなったの。男の人ってなに? 結婚ってなんなの?」
「不倫は男の専売特許」みたいな台詞だけど、山岸先生にはたまには既婚女性の不倫ものも描いてみてほしいです。山岸作品の中に既婚男性の不倫ものは20くらいあるけどその逆ってほぼ見たことないし。
ところで星子の家はなんで寝室の床にいきなりバスタブが埋め込んであるんだろう…。

二口女

Category:山岸凉子

二口女
1992年

甕のぞきの色(プリンセスコミックス)』(秋田書店)
甕のぞきの色(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈6〉夏の寓話』(潮出版社)
に収録。



「3高なんていってる女性もいるらしいけど くだらないわよあんなこと」

「3高なんかにはこだわらない」イラストレーターの由良子(ゆらこ)は、今年こそ結婚しようと次々にお見合いを繰り返すが、気に入る男性が一人もいない。
由良子の姪・紫(ゆかり)はお見合いを偵察するうちに、由良子の女のエゴ、そしてとある男のエゴを知るのであった。


「気持ちだけは若いイラストレーターの叔母」&「しっかり者の姪」という、『あやかしの館』的な組み合わせの二人が出てくるお見合いマンガ。3高とか最近聞かないなー。
「30過ぎのイラストレーターの女性がお見合いする話」といえば『朱雀門』もそうですね。この作品の由良子さんは、お見合いをたくさんしていくうちに、言葉とは裏腹な自分の本当の気持ちに気づきます。というか、紫ちゃんにつっこまれます。

「正直におっしゃい。あなたはね 3高のうちひとつでも欠けていれば気に入らない人なのよ。
おまけに決定的な理由は3人ともハンサムじゃないということなのよ」


「そうなのよ。わたしってすっごい面食いだったのね。
でもって目一杯条件に左右される女だったのよ」


由良子さんは口では「人間は中身よ」と言っていたものの、自分でも自覚なしにハイスペック男子(←今風に言い替えてみました)を求める女でした。
「自己(おのれ)を知りなさい自己を! 幾つなのよ」
しかしタイトルの「二口女」が出てくるのはもう少し先の展開。
3高かつハンサムという虫のいい条件にピッタリ合う男性が見つかり、舞い上がる由良子。
しかしその男はとんでもないことを言い出したのでした。

「妻がキャリアウーマンならそれでいい。家庭的な女は女で他にいますからね」
「歴史を振り返っても成功した男は何人もの女をかかえていたんですよね」
「経済力が許せばそれも充分できることですからね」


この発言にはさすがの面食い由良子さんも怒りました。お見合いの席で「正妻の他にも数人の女を囲うつもりですよ」とか言われたらそりゃ怒ります。ていうかこの男がすごい。
「世の男性は皆こう考えているのだけどずるいので隠している。でも僕は嘘はいやですから
無駄にバカ正直! …この人、この表裏のなさを武器にして、打算的な女なら複数囲って幸せにやっていけるかも知れません。

「あれが男の本音か」と落ち込む由良子さんを、二十歳そこそことは思えない渋い例え話で慰める紫ちゃん。

「めしを食わない女なんてこの世にいるはずないのにそれを望む男と
愛人の存在に平気な女がいるはずだと考える男は同じなのよ。
自分にとって都合のいいことだけを望む男は 結果的には二口女を呼び込むことになるのよ」


「…とするとわたしも同じだわ。めし食わぬ女房を望んだ男と同じだわよ。
自分に都合のいいことばっかり 3高にハンサムなんて…」


お見合いを通して自分自身を知る。このへんはやっぱり『朱雀門』に似てます。
そういえばよしながふみの『愛すべき娘たち』にもちょこっと似たかんじのお話入ってたなー。なんか女性作家が描きやすいプロットなのかも、お見合い物語。

「二口女」は全国にいろんな説があって、紫の言うように「めしを食わない女しか嫁にもらわないと豪語する主人公」という形もあれば、「単にケチな主人公の家に勝手に女房がやって来る」という形もあり、後者の方は「現実離れした嫁取りの条件」を積極的に出してるわけではないのでそれほど悪い人ではないかと。
おそらく話者によって「めし食わない嫁をもらう主人公」と「貞淑な妻の恐ろしい裏の顔」、どちらを強調するのかが変わってくるのでしょう。…って、すっかり民話の話になってました。

貴船の道

Category:山岸凉子

貴船の道(きぶねのみち)
1993年

黒鳥 ブラック・スワン(白泉社レディースコミック)』(白泉社)
黒鳥 ブラック・スワン(白泉社文庫)』(白泉社)
山岸凉子スペシャルセレクション〈8〉二日月』(潮出版社)
に収録。



いや! いやだ! あの女だけはいやだ! いやだ!

不倫相手・和茂の妻が病死し、晴れて結婚することができた真紀子
慣れない主婦業や、元妻の残した二人の子供とギクシャクするなかで、和茂にはまた別の愛人の気配が。元妻・晴美の苦しみを追体験する真紀子。
そして真紀子は晴美の幽霊を見るようになる。


山岸作品の不倫ものには珍しく、不倫相手の後添え(この言葉も古くさいですね)になれた女性のケース。同じく不倫ものの『月氷修羅』の朗子とはちょうど逆の選択をしています。朗子があのラストで結婚を受け入れていたらこんなかんじになっていたのかも…という見方もできるパラレル的な面もある作品。

「晴美さんより先に会っていれば和茂さんと結ばれたのはわたしだった」と思っていた元愛人・真紀子も、結婚してみれば再び和茂が別の女と会ってるかのようなそぶりに、今度は晴美と同じく「妻」として悩まされます。「二日続けて着たのにワイシャツの衿が汚れてない」とか、不倫経験者にしかわかんねーよ…。

これは天罰なのか わたしが以前やったことをやり返される
そして和茂さんは前と同じことを平気で繰り返すの!?


全体的に大人っぽい「男女の業」というテーマの中にも山岸先生らしい恐怖あり。うしろ向きのまま近づいてくる元妻とか、「チューリップの芽かと思ったら人の指だった」はかなり怖いです。

そうか 和茂さんは母親になってしまった妻には興味はなくなるのね
よく出てくるなー、この手の男。

“女の業”とは男の業によって呼び活けられるのだ
妻だけではあきたらない“男の業”によって
では古来から言うところの業の深いのは 女ではなく男ではないのか
いや そうではない 業とは男も女も等しく持っているものなのだ


結局和茂は本当に浮気してたのか、真紀子の思い過ごしだったのかはわからないのですが、最終的に破滅しなかったラストは不倫ものとしてはけっこう珍しい。
最後では草太くんも真紀子に懐いてくれたし、真紀子は山岸作品不倫界の勝者といえましょう。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
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大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
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ドリフターズ
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HUNTER×HUNTER
etc.