裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

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百物語

Category:その他マンガ

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百物語(新潮文庫)
杉浦日向子
全1巻
新潮社


面白かった! こういう不可思議な話は大好きです(耳嚢とか岡本綺堂の怪奇ものも好き)。杉浦先生の作品の中でも超おすすめ。
なんか無駄に恐怖を煽るタイトルですが、決して「ものすごく怖いマンガ」ではなく。キャーキャー悲鳴上げる系のホラーでもなく(其ノ四ののっぺらぼう?のシーンはちょっとビビったけど)。
江戸の町で実際に語られていた、不思議な出来事、怪談、奇妙な噂…などが淡々と、しかものんびり描かれています。怖い話は結構怖いのに全体的な雰囲気が妙に柔らかいっていうか。

例えば、「其ノ二 障子の顔の話」はこんなかんじ。

その頃は 何、とも思わぬものの 今振り返ってみると 不思議な気がする。
子供の頃 夜中に目をさますと 土間へ続く障子に必ず 小さな顔のようなものが浮かびあがっている。
それは子供のコブシほどの大きさで マス目はいつも決まっていた。


朝になると跡形もなく 紙を張り替えてもまた同じようにあらわれ
そうして何年も過ぎて行き ぞっとするほどのことは何もない。
ある夜 ふとたわむれを思い付き 顔の上を墨でなぞった。
翌日 そのマス目は切り取られ 新しい紙が張られた。
なぜだろうか その日以来顔は消えてしまった。


…終。オチなし!
「ぞっとするほどのことは何もない」とか自分で言っちゃうんだからたまりません。

ずっとこんなテンションで其ノ九十九まで語られます(百物語は九十九でやめるのが普通らしい)。
杉浦日向子はこういう話をまるで見てきたかのように描けるのが素晴らしいなぁ。

急に山へ駆けて行って帰って来なくなった女房の話とか
長持の中に隠れたら消えた女の子の話とか
ある日何の説明もなしに女房が二人に増えた話とか
異常なまでに桜を嫌う男の話とか
生まれなかった姉が腹の中にいるというおじいさんの話とか
鉄を食って育つ妖物の話とか
壁から手が生えていたのでザクロを乗せてみた話とか
掛け軸に描かれた女と暮らす男の話とか
あと普通にドッペルゲンガーとかオトナイさんとか産女とかの有名どころも出てきます。

私はどの話も好きなんですが、特に好きなのは

「素晴らしく磨き込んだ楓の長廊下に、魚影が映る」という話。

廊下を泳ぐ魚は幻想的で美しい。

あと「フキちゃんの話」
遊郭に住み着いた幽霊・フキちゃんがいたずらしたり井戸で泣いたりするのが可愛い。

そんなフキちゃんにおむすびをあげる小母さんも和む。

あと「愛娘の霊の話」
死んだあと幽霊になって暴れまくる娘・ナミの話。
可愛い盛りの愛娘を、ふと死なせた。
肉体から解き放たれ、天衣無縫に振る舞うアレを見るのは心地良かった。


死んだ子供の話なのにこの辛気くさくなさ。良いなぁ。
そしてナミが下の子(胎児)に握りつぶされていきなり場面転換して
今、赤子はすくすくと肥えている。

この語りには省略の美というものがあると思います(力説)。これが粋というやつか…!

あと「山の一本道の上空から長あい帯がぶら下がる」という話も好きです。
ただ下がっているだけで別にどうするわけでもありませんがね。
そんなものが下がった日には気味の悪いものです

意味なさすぎて好き。

他にも、死んだ女房の幽霊が井戸端に出るから井戸をさらってみたら
生前に誤って落としたらしいこんにゃくが出てきて
人というのはこんにゃく一枚で彼岸へ渡れぬものかと可笑しかった。
それ以来幽霊は出ていない。

とか、いいなー。この「だから何?」な幽霊話(褒めてます)。

淡々とした語り口に、杉浦先生の味のある絵がものすごく合います。
杉浦さんの描く江戸はほんとにいいなぁ。

この『百物語』の元ネタ?は根岸鎮衛の『耳嚢』に同じエピソードがいくつかありました。



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百物語
杉浦日向子
上・下巻
小池書院


百物語 下之巻



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杉浦日向子全集 百物語
杉浦日向子
上・下巻(『杉浦日向子全集』の7・8巻)
筑摩書房

百物語 (下) (杉浦日向子全集 (第8巻))


百物語(新潮コミック)
杉浦日向子
全3巻
新潮社

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.