裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

マンガの読み方

Category:マンガ・創作関係





マンガは「記号」の集大成だ!
マンガには、「ご都合主義」にのっとった「読み方の暗黙のルール」が無数にある



線、記号、吹き出し、コマ割り、形喩、音喩、文法……
普段何気なく読んでいる「マンガ」というものの要素ひとつひとつを徹底的に解剖した本です。
有名作品を例に挙げ、とにかく分析・解説した200数ページはまさにマンガ表現事典。
この本はマンガ研究者ならとりあえず最初に読んでおくべき本だと思います。
ひとつひとつの項が短いので読みやすいです。絶版なのが惜しい。


第1章 マンガとは「線」である


【はじめに「線」ありき】マンガの世界観を決定する「線」の縦横無尽(斎藤宣彦)

いろんなマンガ家の「線」を見ながら、マンガ家たちが生み出してきた光と闇の表現を探ります。「線」と言いながら一部ベタの話もしてますが。
『デビルマン』の不動明の髪が画面を覆い尽くして真っ暗闇になるシーンは上手いなー。
驚いたのは冨樫が「速度をもった細く流れるような線で世界を活写」とか言われてたこと。そんな時代もあったっけ…(遠い目)。

【道具とタッチの表現変遷史】個性的な「線」を生み出すのは、時代か、道具か?(竹熊健太郎)

いろんなペンで描かれた作品の絵を元に、様々な描き道具を解説。
永井豪とか鳥山明とか、やっぱりGペン派は多いですね。
「全て鉛筆描きのマンガ」というものがあったことにビックリ。こすれたりしないのかな。
製図ペンで描く人がひさうちみちお以外にもっといてもいいと思う。

【マンガ描線原論】一本の線からマンガの「原理」を読み解く(夏目房之介)

ただの「線」にも意味がある。『楽しい線』や『悲しい線』もある…という話が面白い!
感覚の結びつきの話は大好きです。「モダール間現象」だっけ? 線も奥が深いなー。


【少女マンガ】理想の線を求めて(杉本綾子)

少年マンガとは違う「華やかさ」と「繊細さ」を出そうと、みんな試行錯誤していた少女マンガの「線」の変遷。その発生、発達、定着、多様化…そして少年マンガへの影響など。
繊細な心理描写が主なせいか、どんどん線が細くなっていく少女マンガ。その中で高河ゆんの線は個性的な感じがします。
しかし昔の少女マンガの巻き毛率の高さってすごいな。

【マンガに「デッサン」は必要か?】(竹熊健太郎)

マンガ家は何かにつけて「デッサン力」って言うけど、そんなにデッサンは大事か? マンガにおけるデッサンって何?という話。
『サルまん』に出てきた「マンガのキャラクターを無理矢理デッサンしてみた」が好きw
「絵画的なデッサンをマンガで発揮しても気持ち悪いだけです」
やっぱり手塚治虫の「マンガの絵は一種の文字」が正解だと思う。
「『マンガの絵』はあくまでも絵のように見えるだけで、本質は絵画と文字・記号の中間領域の表現だということに注意していただきたい」

【スクリーントーンがマンガにもたらした「革命」】(夏目房之介)

「線」と「ベタ」しかなかったマンガに「スクリーントーン」というものが登場した「面の表現」革命の話。
いろんなマンガ家の描いた「海」の絵が出てきて面白い。高野文子のが好きです。トーン登場前の手塚治虫のベタを流したような海もこれはこれでいいじゃん。



第2章 マンガという「記号」


【コマにおける「主体」と「客体」】マンガのコマは何からできているか?(竹熊健太郎)

『巨人の星』の1コマの中に詰まっているものを分解して解説。
吹きだし・台詞・人物・音喩・形喩(形容)・形喩(動き)…。こんなにもたくさんの情報が詰まっているものを普段スラスラ読んでいるのですね、私たちは。
こうやって見るとやっぱりマンガって一種の言語ですね。そういえばマンガというものを読んだことのない私の婆ちゃんはマンガの読み方がさっぱりわからないって言ってた。

【ひと目でわかる「形喩」図鑑!】漫符と効果の具体的な使用例検証120(竹熊健太郎)

万札の諭吉さんの額に「血管マーク」を描き足しただけでなぜ怒ってるように見えるのだろう?
この26ページに渡る「形喩・漫符図鑑」が面白い! ちゃんと「水滴(水・汗・涙・唾液・鼻水)」のようにジャンル別になってて便利です。
『動物のお医者さん』の「車に血管(怒り)マーク」がついてるのが好きだったな。
しかし今時歩くキャラの足下に「蹴りだし漫符」を描く人はいないと思うぞ…。


【「汗」の表現に見る「形喩」の進化論】マンガの「お約束」は時代とともにこう変わった(夏目房之介)

電球に「汗マーク」を描き足しただけでなぜ焦ってるように見えるのだろう?
上の「形喩図鑑」よりもう一歩踏み込んで「汗」という形喩だけを取り上げてます。頭の周りに飛ぶ汗。髪の毛にかくありえない汗。吹きだしから出る汗。
「元来、汗は運動時に流れる物理的な分泌液でしかない。(中略)形喩の意味も使われ方も刻々と変わっているのだ」そういえば不思議ですね。
なんかもう漫符・形喩をひとつひとつ時系列で収集したくなってきた。

【マンガの真骨頂「形喩」とは何か?】マンガ的記号の分類の試み(夏目房之介)

そもそもマンガとは、すべてが記号である。にもかかわらず形喩は、より強い記号性をもっている。分類を試みれば、形喩はいったいどこに位置し、どんな役割を負っているのだろう?
大正とか昭和初期あたりの古いマンガの記号例が載っていて面白いです。「頭から湯気」は今では使わんなー。
しかし何かにぶつかった時なんかに出る「星」の形喩は「頭への衝撃を脳が光情報と誤認して錯覚する星」という説もあるから、果たして「実際は目に見えない形喩」のうちに入るのかどうか。

【吾妻ひでおの壊れた世界】(夏目房之介)


吾妻ひでおの掴みどころのないキャラ、白目のキャラ、無表情な哲学的先輩……これは、マンガに定着した形喩の意味を否定することに立脚した壮大な試みでもあった。
せっかく記号やら形喩が発達して戦前マンガとは比べものにならない「表情豊かなマンガ」が描けるようになってきたところであえて「空虚」を描こうとした吾妻ひでおのキャラ作りは興味深いですね。
無口・無感情・無表情な「綾波系」がどの作品にも一定数いるのもこのへんが何か関係ある気がするんです。何だろう、乏しい表情に飢えているとか? わからん。

【マンガは「性器」をどう表現してきたか?】(竹熊健太郎)

「性器の直接描写」が法律で禁じられているために様々な工夫をするマンガ家たちの話。
シルエットで描いてみる、わざわざモザイクをかけてみる、ピストルにしてみる、記号で描いてみる、いっそノッペラボーにしてみる…など、マンガ家さんたちの苦労がしのばれて面白い。ぺぽかぼちゃ!



第3章 「言葉」がマンガを規定する


【擬音から「音喩」へ】日本文化に立脚した「音喩」の豊穣な世界(夏目房之介)

オノマトペを研究してる私としては非常に興味深い話です。
日本のオノマトペって世界に誇れる豊かさなのに研究してる人が少ないのが残念。特にマンガのオノマトペは口語や小説なんかより自由度が高くて種類が豊富で面白いんです!(力説)
銃声を最初に「バキューン(キューンは残響)」で表した人と、無音状態に「シーン」と音を入れた人と、ショック音を「ガーン」で表現した『巨人の星』の作者は褒めてあげたい。
 
「びくともしない」を略して「びくとも」という擬態語のようなものを作り出す…という手法はこの先増えると思います。元々日本語のオノマトペって一般語彙との関連がかなり強いし。
マンガ家さんには「何でもオノマトペになる!」っていう気持ちでいろいろなオノマトペを開発して欲しいなー。

【吹きだしは何を伝えているか?】形を変える意味まで変わる謎の情報風船(竹熊健太郎)

マンガの台詞に欠かせない「吹きだし」の話。大きく「肉声型」「非肉声型」のふたつに分類されます。
吹きだしの形もけっこう種類あるんだなー。「電話越しの声」の吹き出しを最初に考えた人は褒めてあげたい。
山岸凉子の「角丸長方形吹きだし」は載ってなかった。

【原作はいかにマンガに変換されるか?】マンガの背景に存在する「目に見えない言葉」(近藤隆史)

小説版『巨人の星』と原作マンガ『巨人の星』を例に、言葉と絵の関係を探ります。
編集者である近藤隆史の「ストーリー作りは下手だけど絵は上手い新人に、ちゃんとしたストーリー(原作)を与えたのに、マンガにした途端何故かつまらなくなった」という経験談が面白かったです。私も最近「原作つきマンガ」というものの作り方が気になってたんですが、やっぱり「文字だけで書いてあったもの」を「マンガ」という形にするまではすごい大変なんでしょうね。だって文法が違うもの。多分スワヒリ語を日本語に翻訳するくらい大変ですよ。

【言葉と絵の迷宮】マンガにおける言葉と絵の奇妙な関係(夏目房之介)

「絵」と「言葉」がひとつのコマに混在している「マンガ」というものの複雑さ。どれを絵で、どれを言葉で伝えるべきか?
台詞、モノローグ、ナレーション……意外と作家の個性が出るもんですね。『ちびまる子ちゃん』のナレーションツッコミは画期的だったよなー。
作者の手書き文字がゴチャゴチャ書いてあるのは好き。


【マンガ表現から見た編集者の役割】(小形克宏)

編集者の語る編集者のお仕事。写植の話が多めです。
単行本も出版社によって写植やアミが変わってたりするんですね。古い手塚作品などの版元別比較が見られます。
場面の至る所に「!?」が出るのは『特攻の拓』限定じゃなくて、マガジン作品全般で頻発される演出だった気がしますが。

【少女マンガと「少女小説」の表現】(杉本綾子)

ひとつのストーリーのマンガ版と小説版の比較が面白いです。
タイトルは「少女小説」となってますが、最近流行りの「ケータイ小説」の構造にも通じるものが。
あれも小説というよりは「マンガのリズム」で書かれた、読者の頭の中で物語を構築してもらうための、「お話の素(プロット)」に過ぎないんじゃないのかなあ。だから対象年齢外の人の言う「文が下手くそだ」というツッコミは的はずれだと思う。



第4章 マンガをマンガにしているのは「コマ」である


【コマの基本原理を読み解く】読者の心理を誘導するコマ割りというマジック!(夏目房之介)

物語マンガはコマ割りされて初めてマンガとなる。
落差による圧縮と解放の原理、時間経過という機能、読者の目線を誘導する……コマ割りの役目っていろいろあるから、研究しだすときりがないですね! マンガ史上最大の発明ですよマジで。
例として出てくるマンガのコマ割りがどれも素晴らしくて勉強になります。石ノ森章太郎コマ割りうめー。日常的コマ割りなら高橋留美子。コマ割りの上手いマンガ家さんは本当尊敬します。
しかし少女マンガのコマ割りが少年マンガより複雑なのはアクションより心理描写が多いからなのか? 少年マンガに比べてレイヤーの重なり方半端ない。


【「間白」という主張する無】コマの隙間には「時間」が詰まっている!(夏目房之介)

マンガの「コマとコマの隙間」についてのお話。上の項と同じテーマのようで微妙に違います。
この項も例作品のコマ割りが素晴らしいです。特に『めぞん一刻』の対面シーンは、最初見た時目からウロコが落ちたっけ。あと『陽だまり』の「コマの瞬間圧縮」の手法もすごい。「間白」を使いこなせてこそマンガ家ですね。


【マンガ文法におけるコマの法則】コマとコマ、コマとページの関係と分類(夏目房之介)

コマには文法ともいうべき法則性があるはずだ。読者の心理にのっとったコマの文法を読み解いてみる。
コマの圧縮・解放、枠ありのコマと枠なしのコマはどう違うのか、コマで表す時間と空間…。
ここまで来るともう「コマ」もひとつの学問ですね。図版がすごいことになってますw


【仮説・コマの発達史】マンガはいつからマンガになったのか?(夏目房之介)

「コマ」というものはいつどのように誕生したのか。
昔の絵巻・見聞誌・絵物語を挙げてマンガという表現の発達を探ります。明治頃の絵物語の「絵を枠で囲って、隣ページに文で説明」というスタイルは、もうあと一歩でマンガですね。
しかしたった数十年でここまで発達したマンガってすげーなあ。

【風景とドラマの対位法】つげ義春『海辺の叙景』の異様な視覚効果(竹熊健太郎)

つげ義春の短編『海辺の叙景』の「異様さ」を検証しつつ、マンガの特質の効果的な使い方を読み取る。
この作品ほどキャラの台詞と視覚イメージが反対なマンガも珍しいですねー。話は普通なのに印象が暗い暗い。
「マンガを形成するあらゆる要素が互いに裏切り合う『対位法』によって構成された作品である」
単に暗い雰囲気しか描けないだけだったりして。だってつげ義春だし(偏見)。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.