裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

蛭子

Category:山岸凉子

蛭子(ひるこ)
1985年

笛吹き童子(プリンセスコミックス)』(秋田書店)
自選作品集 月読(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈2〉汐の声』(潮出版社)
に収録。



「お姉さん お金貸してくれない」

一人暮らしを始めた女子大生・里見は、ひょんなことから遠縁の美少年・春洋(はるみ)に懐かれる。
しょっちゅう遊びに来るようになった春洋を、初めは弟のように可愛く思っていた里見だが、春洋が部屋に来るたびにおかしなことが起きるようになり…。


実はこの作品、ずっと意味がよくわかってなくて「何だかよくわからないけど気味の悪い話」という印象だったのですが、
(結局どゆこと? 春洋くんは何が目的なの? 春洋は二人いるの同一人物なの?)
他の人の感想をいろいろ読んだ結果、「恐ろしいサイコパスに狙われた女子大生」という話でいいみたいですよ。
サイコパスというものが認知されはじめた頃なのかな? でも春洋の行動が謎すぎてやっぱりちょっとわかりにくい。

比喩に時代を感じる「風・木のような美少年」春洋くん(中1)は、なぜか里見に懐く。
やがて金をせびりだす春洋くん。いじめっ子に金を取られるんだと涙をこぼす春洋に同情してお金を渡していた里見ですが、春洋が来るたびに部屋にしまってあったお金がなくなっていくのに気づきます。
怪しんだ里見は春洋に少し冷たく「お金返してくれるの」と聞きますが、ヘラヘラしながら「ごめんお願い2万円だけ貸して」と言う春洋。いい加減にしろと言ったら今度は泣き落とし。
この春洋の目的(金)さえ達成できれば何でもいいや感。これがサイコか。

しかし春洋くんは何がしたいのかわからんな。家はお金持ちなんだから、貧乏学生の里見からお金を取るのも真の目的ではない?
この「金持ちなのに金をせびる」という謎の行動のせいで私は最初に読んだ時「この春洋は最初に会った春洋とは別人なの??」とかいろいろ混乱してしまいました…。
ただ単にお人好しから金取って虐めて楽しみたいだけなのかな。サイコパスの怖さってそういうところだと思います。思考回路がもう怖い。


そして始まるサイコストーカー地獄。ピンポン攻撃! 玄関先に猫の死体! ケーキぶちまけ!
「お姉さん 好きなケーキ持ってきたよ 入れて」
この作品で一番怖い1コマ。
見た目は美少年なのに、こいつ歪んでるな…というのがよくわかる気持ち悪い目つき。素晴らしいです。
昔うちの近所に住んでた危ない人もこういう目つきをしていたなぁ…。

恐怖のどん底の里見はとうとう春洋の家に事実を説明しに行きますが…、里見はサイコパスの北島マヤ並の演技力をなめていた。
春洋くんは家では超いい子だし学校でも優等生で人望も厚いクラス委員様! 春洋に隙はなかった。納豆も嫌いなのだった。
圧倒的な信頼のある春洋、嘘つき女みたいな目で見られる里見。

絶望して帰宅した里見ですが。
あれ? ペットの金魚が死んでる…。鍵は閉めてたはずなのに…。
終わり方が怖い。
学校では春洋くん当然猫かぶってるんだろうけど、影で里見みたいにすっごい虐められてる子がいると思う…。


でも里見ちゃん、ターゲットにされたのは不運だけど、実際はサイコパスと出会ってすぐに「危ない奴だ、私はこいつに狙われている」って気づけること自体はかなりラッキーなことなんだよなぁ…と思いました。
私も里見ちゃんと似たような経験がありますが、凄腕のサイコパスにターゲットにされると、いつの間にか見事にマインドコントロールされて、里見ちゃんみたいに正常な判断はできなくなるんです。
(場合によっては「サイコさんは被害者、加害者は自分」と思い込まされて死ぬまで搾取され続けることも…)
なので実際のサイコパスは、こんなわかりやすいホラーにはならないかも知れません。何せ自分が被害者だということにすらに気づけなくなるんだから…。

この作品にひとつ言わせていただくなら、個人的に山岸先生の描く「怖い美少女」がすごく好きなので(虹子ちゃんとか夏夜ちゃんとか八重子ちゃんとか)、春洋くんは男の子より女の子の方がよかったなー。
こういうサイコさんは男だとなぜかあんまり凄みが出ない気がする…。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

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etc.