裏次元の一日

マンガ・アニメを研究したり分析したり考察したりしてなかったり。

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あやかしの館

Category:山岸凉子

あやかしの館
1981年

『あやかしの館』(プチ・コミックス)
山岸凉子作品集〈10〉傑作集4 夏の寓話』(白泉社)
山岸凉子全集〈17〉ゆうれい談(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子恐怖選〈4〉汐の声(ハロウィン少女コミック館)』(朝日ソノラマ)
山岸凉子スペシャルセレクション〈10〉ヤマトタケル』(潮出版社)
に収録。



「だれかいるんですよね」

は高校に通うために、叔母の由布子の家に居候することになった。
浮世離れした由布子の性格にも慣れてきた頃、葵はその家で起こる奇妙な現象に気づく。


この後『二口女』(由良子さん&縁ちゃん)『ケサラン・パサラン』(由良子さん&紫苑ちゃん)と続く「気持ちだけは異常に若いイラストレーターのおばさん&寒色系の名前の女の子」という二人が出てくる作品群の一番最初の作品です。
その中で一番どうかしている由布子さんは、なんか微妙に失敗した洋館に住んでいましたが、その家は変なことばかり起きます。怯える葵ちゃんですが、由布子さんは「えーでもしょうがないじゃない」みたいな反応で終わらせてしまいます。肝が据わっているというか図太いというか。

この話に出てくる由布子さんの「あやかしの館」は山岸先生が当時住んでいた家をモデルにしただけあって、葵ちゃんの恐怖体験が妙にリアルで怖いです。家電が信じられないくらい故障する。ドアも開いてないのにドアの開く音。玄関ドアの覗き穴から見える、金色の光をひいて歩く透き通った人…。
最後はギャグで終わらせてくれてるのがありがたいですが、やっぱり怖い。「寝てると近づいてくる誰かの足音と吐息」が一番イヤですね。でも金色の帯はちょっと見てみたいかも?

「おかしいと思ってたのよね この家。
とくに玄関がよ。信じて ね! 由布子さん」

「だからって どうしようもないではありませんか」

葵ちゃんとはまた違うクールツッコミの家政婦・寒川さんには理由がわかってました。

「お玄関が表鬼門なんですよ この家。
古いことをいうとお思いでしょう。
でも玄関が鬼門じゃ 何かが通ってもあたりまえなんですよ」


『山岸凉子全集〈17〉』の巻末には山岸先生のインタビュー記事「山岸凉子の幽霊譚」が載っていて、『あやかしの館』に出てくる不思議エピソードは全部、山岸先生が自分の家で実際に体験したことだと語っています。す、すごいな…。このインタビューの時はすでに「鬼門」の玄関は改装されていたらしい。
「玄関に貼ったお札だけがはがれるんですよ」
「鬼門を閉じたら精神は平穏になったけど、仕事は鬼門が開いてた時の方が調子が良かった」という話も出てて、悪いことばかりじゃないとこが逆にそれっぽくて面白い。お手伝いの寒川さんの名前の元ネタは寒川神社か…。

私はというと、家相とか鬼門とかあんまり信じてないんですけど、『ケサランパサラン』にもちらっと出てきた「方違え」ってやつはちょっと信じてるんです。何故かというと↓

昔、私が子供だった頃、両親が「田舎の一軒家に住みたいわ」というありがちな願望を抱いたため私たち家族は同県のわりと田舎の方の市に家を借りて引っ越したんですね。
母はたまたま機会があって視てもらった占い師から「今の時期にその方向へ引っ越すのは良くない」と言われたらしいのですが、あまり気にせずその田舎町で新生活をスタートしたんです。
しかし憧れの田舎ライフは想像と違い過酷でした。私たち家族は近所の人々からよそ者扱いされ、私は転校先の小学校がなんか軍隊か刑務所みたいな学校で、(校舎は高い塀で囲まれて生徒が逃亡できないようになっていた)担任教師にいじめられ不登校→引きこもりになってしまい、家族全員心身共に疲労し、たった1年で元住んでいた町の2DKのアパートに逃げ帰ってしまった、という苦い経験があるのです…。
占いの結果とそれとは偶然かも知れませんが、あの頃の生活があまりに強烈に酷かったので信じざるを得ないというか…。うちの両親は今でもたまにあの頃を思い出して言います。「あの占いは当たってた」と。
そういえばあの田舎で借りてた家もよく幽霊出てたなー。だから家賃格安だったのかな。

青海波

Category:山岸凉子

青海波(せいがいは)
1982年

時じくの香の木の実(あすかコミックス)』(角川書店)
に収録。



「ゆっくりやすんでくださいね」

盲目の少年・多(まさる)が波打ち際を歩く。
多の見えない目には、すでにこの世を去った人々が見えていた。


「何かを代償に手に入れた異能」や「死後の人間」をテーマにしながらも、幽霊に優しい多くんと特に何も悪さをしない幽霊さんのおかげで、なんか妙に和み系の作品になっている短編。女の子の幽霊と貝拾いして遊んじゃってます。楽しげ。
「盲目・幽霊・海」といえば、『海底より』を思い出すんですが、あっちとは全然違いますね。真美さんも全盲になった暁にはこういう和み系「見えるひと」になってほしいです(無茶言うな)。

夫を残して死んでしまった幽霊さんが、夫が自分を喪った悲しみをようやく乗り越えて元気に暮らしているところを見届けて、安心して成仏していくシーン。「これでわたし、ようやく目を瞑ることが…」と言って逆に目を開く場面が印象的でした。

この作品が未だに一冊の単行本にしか収録されてないのは地味だからですかね…。(^_^;)
山岸作品の幽霊ものにしては負のオーラが漂ってなくて私はけっこう好きですけど。

黄泉比良坂

Category:山岸凉子

黄泉比良坂(よもつひらさか)
1983年

黄泉比良坂(ボニータコミックス)』(秋田書店)
わたしの人形は良い人形(あすかコミックス)』(角川書店)
神かくし(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈3〉神かくし』(潮出版社)
に収録。



ああ どうしよう
わたしは自分が誰なのかわからない!


」は気がつくと一人深い静寂の中にいた。
暗闇の中、たまに通り過ぎる人々を追いかけ、自分が誰かもわからぬまま「私」は彷徨う。


最初の「私は目も耳も声も手足も失ってしまったのだわ!」みたいなとこで「え、そういう話!?」といきなりビビってしまいましたが、よく見ると着物は堂々と死に装束。
ストーリーは人に取り憑く幽霊さんを密着取材したみたいなかんじです。

自分が死んでいることに気づいてないおばさんは、見えない目に時折見える人を追いかけます。でも絵里子ちゃんの「マブシイおばあさん」に追い出されるおばさん。絵里子ちゃんのおばあさん頼もしっ。
月の絹』といい、山岸先生えらくニンジンごはんを推してくるなあ(笑)

自分と相性の良い人間を探すおばさん。他人を恨んでばかりの女を見ていて死ぬ前の自分を思い出す…。
この主人公が自分のことを忘れたり思い出したりまた忘れたりするのがなんか怖いんです。「忘れる」って怖いよね…。

最後はそのへんにいたモブ顔の男性の肩に乗って高笑いするおばさん…。
…「おばさん肩に乗る」っていうとなんかスプーンおばさんの続編みたいですね。(どうでもいいよ)
私も以前、「見える」知り合いに「なんか憑いてる」と言われて背中をバシバシぶっ叩かれたことがあるのですが、このおばさんみたいなのが憑いてたのかなー。おじさんだったら別の意味でイヤ。

あなたのそばにいると あたしは五体満足
嬉しい 嬉しい!
あたしの目が耳が口が甦る
世界が生き甦る


主人公目線ならハッピーエンドなのにあんまりそうは見えないのはなぜ。

ひいなの埋葬

Category:山岸凉子

ひいなの埋葬
1976年

ひいなの埋葬(花とゆめコミックス)』(白泉社)
山岸凉子作品集〈10〉傑作集4 夏の寓話』(白泉社)
山岸凉子全集〈32〉ひいなの埋葬(あすかコミックス・スペシャル)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈9〉鬼子母神』(潮出版社)
に収録。



「誇りの象徴でもなんでもない
呪われた血筋の象徴でしかないんだ このひな人形は」


16歳の弥生は、遠い親戚の梨元家の雛祭りに招待された。
皇族の血を引く元華族だという梨元家には、弥生と同い年の令嬢・静音がいた。
そして弥生は静音にそっくりなシズオという少年にも出会うが…。


皇族の血を引く元華族様とか入り婿とか降嫁とか分家とか、初っぱなから古めかしいワード満載で時代を感じる作品。身分の説明が多いと池田理代子作品みたいだ(笑)
「女系家族」だとされる梨元家の雛の節句に招待された弥生ちゃんは、同い年の静音さん、そして彼女に瓜二つの少年シズオと出会います。静音嬢の武家の令嬢みたいなシンプルなお着物好きだなー。
弥生は夜しか現れないシズオを不思議に思いながらもシズオと親しくなっていきますが、実はシズオには「呪われた血」が流れていたのでした…。

この話で一番の危険人物は梨元家当主のおばあちゃん! 「男がすぐ死ぬ血筋」という秘密を隠し家の名誉を守るために、孫の性別を偽って発表してそのまま主治医(男)と偽装結婚をさせる。
挙げ句の果てに弥生には梨元家の子孫を産ませようとシズオを夜這いに行かせるとか超クレイジーです。
こういうキャラ見ると「身分」とか「家柄」がフィクションではいかに作劇に便利かがわかりますね。
そして男であるシズオを愛していたという主治医兼婚約者の雪(きよし)。昔の少女マンガって今と違ってBLとの住み分けが完全じゃないから好き。

ところでここに出てくる静音のように「病弱なお嬢様」というキャラは健康な庶民と対比させるかたちでよくマンガには登場しますけど、「血で家を繋ぐ」立場なら令嬢が病弱ってのは本当はよくないんじゃあ…? 結婚に不利になったりしそう。それなのに「お嬢様は病弱(で大人しい)」というイメージがここまで浸透してるのが不思議。しとやかさを求めすぎた結果病弱というイメージに辿り着いたのだろうか?
実際に中世イギリスでは良家の令嬢の理想像は青白くてフラフラしててすぐ倒れるだったらしいんですけど…。名家ならポンポン子供を産んでくれる健康さを重視してそうなもんだけどなー。それを差し置いても病的なしとやかさを求めるっていうのが、なんかすごいですよね。

そして忘れちゃいけないのが冒頭の弥生ちゃんのギャグ(?)
ものすごいハムサンド いいえハンサム
なんか一周回って面白い気がしてきた。

月氷修羅

Category:山岸凉子

月氷修羅(げっぴょうしゅら)
1992年

笛吹き童子(プリンセスコミックス)』(秋田書店)
甕のぞきの色(秋田文庫)』(秋田書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈4〉甕のぞきの色』(潮出版社)
に収録。



不倫とは女が“別れ”を言うか言わないか
その間だけのことなのだ

朗子(さえこ)
正治と不倫を続けて4年になる。
妻と別れられない正治、彼と別れられない自分。お互いのエゴに気づきながらも不倫の泥沼から逃れられない朗子。しかしさまざまな出来事を経て、朗子はひとつの決断を下す。


不倫がテーマの話では妙に辛口な山岸先生の不倫もの。主人公の朗子28歳が見たり聞いたり考えたりするだけの地味めな話ですが、最後の決断が不倫ものの主人公の中ではかなりの英断ですよ。
不倫に苦しむ朗子は、の夫も不倫していることを知り、またその父にも女がいたことを聞かされる。夫の不倫を聞かなかったことにしたら実際に耳が聞こえなくなったビックリおばあちゃん…。お姉さんはどうして妹が不倫してることに気づいたんでしょうかね?

「ど どうするの まさか……離婚なんて」
「わたし浮気する」
「え?」
「…冗談よ。してやりたいけど。
でも離婚するなんて安易なこと…絶対しないわ。
妻なんてそう簡単に引き下がらないわよ。それはわかってるでしょうね 朗子」

(姉さん 知ってるのね……)

ここらへんを読んでて「なんで? 自分も浮気すればいいじゃん」「つか離婚すれば?」という感想を抱いてしまう私は独身。当事者にとってはそんな簡単な問題ではないであろうことはわかってますよ。
うーん、お姉さんの「引き下がらない」に具体的な計画はあるのかねぇ。なんかこの人、妹には強いこと言ってても結局夫には何もできなそうな…。あ、でもこういう大人しい奥様に限ってキレると恐ろしかったりするからなあ…。朗子姉(黒目がち)にはそんな印象を受けました。

姉さんのあの眼…
そうよね 姉さんを苦しめる女はわたしでもあるんだ!


自分と近い人(身内)が夫の不倫に苦しんでいる妻、自分は愛人側という構図は『死者の家』と同じですね。『死者の家』終盤の美佐と同じくズルズルと不倫の泥沼にはまっていた朗子ですが、ある日正治の妻が急に亡くなってしまいます。あら急展開。
ようやく結婚できる状況になった二人。しかし朗子は。

「わたしたち別れましょう」

朗子よく言った! 正治の手に「ハム」って書いてあっても前言撤回しちゃだめだよ!(←伊藤理佐『おいピータン!』のネタ)
それにしてもこの正治って男は腹立ちますねー。「長い間待たせた」とか「わからない君の言ってることが」とか「そうやって自分だけを愛していけばいい」とか! こんな奴が奥さんの生きている間に愛人の方を選べるわけないって。どうして女はこんな男に「一度に二人の女」なんていい思いさせちゃうんだ…。男なんて愛人や妻がどんなに苦しんでても所詮「俺ってモテてる」くらいにしか感じてないんだから…。
癪だから山岸先生には既婚女性の不倫ものも描いて欲しいなー。何の落ち度もない夫がいながら若い間男と不倫する主婦の話を是非。そんで間男と夫が何年も苦しむの。

不倫相手の奥さんが亡くなってそのまま後添え(←なんかやな言葉)になることを選んだパターンだと『貴船の道』があります。あっちはあっちでまあハッピーエンド。

千引きの石

Category:山岸凉子

千引きの石(ちびきのいわ)
1984年

鏡よ鏡…(ぶーけコミックス ワイド版)』(集英社)
山岸凉子恐怖選〈3〉千引きの石(ハロウィン少女コミック館)』(朝日ソノラマ)
自選作品集 わたしの人形は良い人形(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈6〉夏の寓話』(潮出版社)
に収録。



「戦争中 空襲にあってケガ人をあの体育館に運んだらしいよ」

中学2年の可南子は両院の離婚によりN市の学校へ転校してきた。
しかし学校の古い体育館には恐ろしい噂があり…。


空襲に遭った人々の霊がうごめく古い体育館で恐ろしい出来事が…という王道学園ホラー。正直展開がスタンダードすぎてちょっと物足りないかなー。
全校生徒が体育館の恐い話を知ってるのに、ハブられ気味転校生の主人公だけが知らずにホイホイと近づいてしまいます。そういうのは早めに教えてあげて…。体育館の扉を開けたら地の底まで続いてそうな急な階段が…というシーンが高所恐怖症としては恐かったです。
タイトルが古事記ですが、本編では「幽霊に桃のコンポートを投げつけて撃退」のシーンがうっすら古事記です。山岸先生、古事記好きね。

秀才の榊くん&ハンサムでスポーツマンの西町くんと仲良くなったり、そこそこ明るく楽しい学園シーンもあるのですが、最後はホラーらしく「まだ恐怖は終わってはいなかった」系の終わり方です。いいですね。やっぱホラーとか不思議系の話はアンハッピーエンドで終わらないと!(←『アウターゾーン』のハッピーエンド率の高さが気に入らなかった人の感想)
そして霊現象に立ち会ったというのに一人だけまったく感応しない西町くん(体育会系)。私は超常現象的なものは一度経験したいですが幽霊はなるべく見たくないなーと思ってるので、彼のような強靱な(鈍感な)人間になりたいです。『わたしの人形は良い人形』の陽子母とかもそういうタイプでしたね。

制服が間に合わず、「セーラー服代わりに毎日マリンルックで登校」っていう可南子の発想が素敵! 子供の頃にこれ読んだ時は可南子の「なんちゃってセーラー服」に憧れたものです。さまざまなシーンでマリンルックを披露する可南子ちゃんに注目です。
そんなことより、校舎の裏側から立ち昇る「何か」を見ちゃった可南子ちゃんはこの後学校に通えるのでしょうか…? ていうかこの学校、生徒も教師も全員何かあること知ってるんだから近いうちに取り壊しになるんじゃないかな。

天沼矛

Category:山岸凉子

天沼矛(あめのぬぼこ)
1986年

時じくの香の木の実(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 月読(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
白眼子(潮漫画文庫)』(潮出版社)
山岸凉子スペシャルセレクション〈3〉神かくし』(潮出版社)
に収録。



「桜」をテーマにしたオムニバス。
まったく雰囲気の違う3編の短編で構成されています。個人的には第二話が薄ら怖くて好き。


「第一話 夜櫻」

どうしてここはいつも夜なの
あの桜はなぜいつもいつも花びらを散らすの? 尽きることもなく

神話の世界。一人ぼっちで寂しい神様は天沼矛で沼をかき回し、一人の少女を生みだしますが、少女は蛇神である神様を怖がって逃げてしまいます。それでも神様は、夜が明けない世界を嫌がる少女のために、桜の木に火をつけさせます。木と共に燃え、黒コゲになって苦しむ神様に少女が白い乳を振りかけると神様は立派な男性へと姿を変えましたとさ。めでたしめでたし。
感想に困る(笑)正統派神話ストーリー。えーと、天沼矛は実際に古事記に出てくるアイテムだけど、この話は創作神話でいいのかな? ぐぐってもそれらしい神話が出てこないので。
「どうして少女の乳がでるの?」という山岸先生の的確な自分ツッコミあり。ほんとだよ。


「第二話 緋櫻」

そうだ あれはお母さんだった!
口に櫛をくわえて 目が…光っていた

離婚歴のある駿と結婚することになった佐江子。実家の庭に新居を建てるため、桜の木を伐採する途中、桜の幹から出てきたのは大量の五寸釘。その時佐江子は子供の頃の記憶を思い出してしまう。夜中、櫛を口にくわえて丑の刻参りをする、今は亡き母の姿…。
離婚歴のある婚約者、病気で亡くなった「お母さん」、後妻である今の「ママ(母の妹)」と、意味ありげな人物を配置し、主人公が思い出したお母さんの恐ろしい行動の謎…と来て、さあどうなるのかと思えば「駿との結婚が少し恐い…」でいきなり終わってしまう。このラストに、初めて読んだ時は「山岸先生、もう少しヒントくださいよう!」と思ったのですが、今思えばこのモヤモヤ感が肝だったのかも。
「お母さん」がまだ存命の頃から父は「ママ」と関係があった? お母さんはそれを知っていた? 丑の刻参りはその恨みから? 駿の別れた女性と息子は? など、主人公の脳内を駆けめぐったであろうさまざまな男と女の愛憎劇。男と女って怖い→この先結婚する駿と自分の間にも何があるかわからない→「駿との結婚が少し恐い」という結論なんじゃないのかなと思いました。そのへんがはっきりしないのもまた良し。


「第三話 薄櫻」

「気にするなよ おまえのはすぐ良くなるよ」
人魂が飛ぶと噂される療養所に入院している少年たちの、ちょっと切ないお話。
少年たちの部屋には、少し年上の荒雄(あらお)という少年がいましたが、その名のとおり荒々しい性格なのでみんなから嫌われていました。
でも小6の節(たかし)は、クリスマスの夜に荒雄の意外な優しさを知ります。
ツンデレの荒雄くんに少しずつ懐いていくショタっ子節くん。桜吹雪の中でのキスシーンがあったり、よく考えるとうっすら少年愛な雰囲気のお話です。なんか長野まゆみが書きそうな…。絵と話のせいで全然それっぽくないけど。そういやサナトリウムとかモロに少年愛シチュエーションじゃないか。
普段はキツい荒雄が、病室でクリスマスパーティの準備をするシーンが好きです。他の子がみんな一時帰宅して寂しい節を気づかって…良い兄ちゃんだ…。ホロリ。

牧神の午後

Category:山岸凉子

牧神の午後
1989年

牧神の午後』(朝日ソノラマ)
青青の時代〈4〉(希望コミックス)』(潮出版社)
牧神の午後(MFコミックス)』(メディアファクトリー)
に収録。



翼を持った者には腕がない!
腕がある者には翼がない
それがこの地上の鉄則なのだ


1909年。ロシアバレエ団の新人、ヴァーツラフ・ニジンスキーは「アルミーダの館」で衝撃的なデビューを果たし、その異常なまでの才能で人々を驚かせ続けた。
しかしバレエマスター、ミハイル・フォーキンだけは、ニジンスキーの天才性の裏にある「社会にまるで適応できない」という重大な欠点に気づく。


伝説の天才バレエダンサー・ニジンスキーのお話。ミハイル・フォーキンの視点で描かれています。
上昇し続けて見えるあり得ない跳躍! 事故と間違うほどの拍手の音! 吠えるような歓声! 感動を通り越して動揺しはじめる観客! すごいなニジンスキー!

顔が変わった!?
姿が…フンイキが変わる!?
変身!? いや…! あれは そんな なまやさしいものじゃない
あれは… あれは まさしく憑依だ!


フォーキンは「憑依状態」(←バレエマンガにあるまじき単語出ました)のワッツァから金色のオーラが出ているのに気づきます。ワッツァは人間を超えた何かなのかも知れない。ワッツァの才能に驚きながらも、その反面、社交性が一切なく日常を生きていくことすら困難なワッツァの「影」にも気づきはじめます。

「ワッツァ 4メートル半も跳ぶなんて…よほど勢いでもつけているのか?」

「別に勢いなんか… 跳べるような気がしたから

フォーキンは「曲がるような気がするんだもん」という理由でスプーンをクニャクニャ曲げて見せた知人の息子とワッツァをダブらせます。子供のように既成の事実にとらわれずに「できる」と信じていられることが彼の力の源なのか。しかし、事実にとらわれないということは現実を習得できないことと同じ。ワッツァが世間の中で摩耗してしまうのではないかと危惧するフォーキン。
この作品ではニジンスキーの驚異的な才能を「一種の超能力」という観点から見てて面白いです。HUNTER×HUNTERで軍戯の天才少女・コムギちゃんが念のオーラ出せるみたいなかんじ? あの娘も軍戯以外何もできない子だったなあ…。
「翼はあるが腕を持たない」という比喩が上手い。実際、ある分野で天才と呼ばれる人たちって私生活はメチャクチャだったり人格破綻してたりしますもんね…。ワッツァみたいに「社会に適合できない」とかだったらまだいいですけど、家庭内暴力とかだとその人の仕事も嫌いになってしまう(井上ひさし嫌いになりました…)。

その後、ワッツァは普通の男としての幸せを追い求めて女性と結婚したら、パトロンで同性愛の関係だったセリョージャから恨まれて迫害され、ついには発狂してしまいます。すごい天才らしい生涯。(←不謹慎)
この物語ではフォーキンさんがワッツァの異能も欠点も気づいてくれてるから、フォーキン助けたれよ!と言いたくなってしまいますが、しょうがない。フォーキンはロシアバレエ団からいなくなるし、ニジンスキーの運命は決まってますからね…。

超能力にまで喩えられるニジンスキーの踊りを一度見てみたいなー。踊ってる時の映像が一切ないことがニジンスキーの伝説に一役買ってますよね。わかってるのに「空中で静止したかのような跳躍!」とか言われるとついYouTube検索してしまいます。ないっつーの。

グリーン・フーズ

Category:山岸凉子

グリーン・フーズ
1987年

パエトーン(あすかコミックス)』(角川書店)
山岸凉子スペシャルセレクション〈9〉鬼子母神』(潮出版社)
に収録。



「僕がピアノを弾くよ
マーシャは隣で僕の作曲した歌をうたうんだ
ねえチャック この兄妹愛は絶対うけると思うよ
マーシャ きみのような妹がいて 僕は本当に嬉しいよ」


気の弱いマーシャの兄・トビーは歌も歌える子役。一世を風靡していたトビーだったが、声変わりし、体が成長してしまったことで仕事がなくなる。
逆に歌の才能を見出されたマーシャはトビーと兄妹デュオを組むことになるが…。


ブラコン・不美人・気が弱いと三拍子揃ったマーシャは、有名な子役である兄を心から崇拝し、学校にも行かず毎日テレビで兄の姿を探していました。しかしトビーが子役として駄目になった頃、それを補うかのようにマーシャの歌の才能が開花します。
こうやって書くと普通に兄妹デュオのサクセスストーリーっぽいのですが(実際にそういう話ではある)、メインはやはり兄妹の確執、兄の心の闇、妹の心の病…。またしても誰も幸せにならない、みんな可哀想なかんじのお話。

可愛らしい子役だったトビー。しかし子役として避けられない運命が彼に訪れる。ボーイソプラノは父親そっくりのダミ声に。どんどん似合わなくなる半ズボン。
トビーが大人の男に向かって成長しだして両親ガッカリっていうシーンがなんか悲しい…。

本来ならそれは成長の当然の結果として歓迎されるものだったでしょう
しかしエンジェルのような という形容で売っていた兄には
これはあまりにむごい変身でした


トビーは誰からも成長を喜んでもらえなかたんだろうなあと思うと可哀想です。普通親って喜んでくれるじゃん。でもトビーの両親は「もう贅沢できなくなっちゃう」ということしか考えない。トビーというキャラクターは全然好感持てるようなキャラではないのですが、それでも可哀想。
そして息子の栄光を引き留めようと躍起になる母親…。ああよみがえる『汐の声』のトラウマ。実は私の怖いものリストには「ステージママ」が昔から入ってます…。怖い。

ほとんど自閉的なマーシャをトビーが上手くフォローし、敬愛するトビーの影に隠れてマーシャが歌う…という微妙なバランスながら、トビーとマーシャのデュオは順調に売れっ子になっていきます。
しかしマーシャは徐々に拒食に陥っていきました…。

無論 私は痩せてきました
するとその事が 少しは私を美しく見せるように思えるのです
そうなると食事をしない事が快感になってきたのです


そういえばこの作品はカーペンターズがモデルなんでした(スペシャルセレクション9のコメントより)。
カーペンターズのカレンも拒食症で亡くなってるんですよね…。カレンといえば前に昔の映像をテレビで見た時、似合わないフリフリの白のドレスを着せられてうつむいていたのが印象的でした。…まさかマーシャがフリフリドレス着て「似合わ…ない」と落胆するシーンはこれが元ネタか…?

とうとう倒れたマーシャにトビーが胸の内を吐露するシーンが、こ、怖い。
子供の頃の恨みを無意識のうちに妹に向ける兄。自分より遥かに優れ恵まれていると思っていた兄の心の内を初めて聞く妹。実はお互いがお互いを羨(恨)んでいた。このへんは『瑠璃の爪』に似てるかも。しかもどっちかっていうとトビーが絹子?

「昔 僕がパパやママやきみを養っていた事を覚えているだろ
5、6歳の子供が寝る間もなく働いて 毎日眠くてしかたなかったよ
子役としてだめになった時も ピアノを昼となく夜となく
吐き気がするほど弾かされて本当につらかった
つらくてつらくてたまらないのに 子供の僕にはどうする事もできなかったんだ
それなのに きみときたら 毎日テレビばかり見ているんだもの
ひどいよね 僕があんなに働いている時
もう一人の子供はろくに学校へも行かず 遊んでるなんてさ」


息も絶え絶えのマーシャにひたすら語りかけるトビー。「やっと本当の気持ちを打ち明けられた」といったプラスイメージでは描かれてないところが怖い。
…ところで、アメリカって確か子役の労働時間規制が厳しくて「子供が寝る間もなく働く」のは不可能だったと思うんですが(アメリカに双子の子役がやたら多いのもこれが関係してるらしい)…。まあ昔の話ということで…。

惜しいなー。これカーペンターズモデルじゃなきゃ山岸先生はきっとこの二人を兄妹じゃなく姉妹にしたはず。そしたら「姉妹の確執系作品」コレクションが一個増えたのに。惜しいなー。(←何を勝手なことを)

キメィラ

Category:山岸凉子

キメィラ
1984年

山岸凉子作品集〈9〉傑作集3 黒のヘレネー』(白泉社)
パエトーン(あすかコミックス)』(角川書店)
自選作品集 ハトシェプスト(文春文庫ビジュアル版)』(文藝春秋)
山岸凉子スペシャルセレクション〈7〉常世長鳴鳥』(潮出版社)
に収録。



その時あたしは この世にあり得ぬものを見ていました…
彼女の………… 下半身に


女子大学に入った磯村は寮で中世的な少女・鈴木翔(かける)と同じ部屋になった。
ほとんど平らな胸と男名を持つ美少年のような彼女に磯村は関心を持つが。


共学時代の「ムサい男」へのうんざり感、そして学園生活のつまらなさから来る「何かに夢を持ちたい」という思いを、男装の麗人・翔に憧れることで満たそうとする磯村(下の名前出てこない)。
でも翔は磯村が夢見たような美少年ではありませんでした。寡黙でほとんど口をきかず、一人で花の咲かない万年青を愛で、拾った動物の飼い主を執拗なまでに捜す。そういう変わった人でした。
一方、大学のある街の周辺では、お年寄りばかりを狙った殺人事件が相継いでいて…。

「翔さん すまないんだけど あの…ナプキン持ってない? 急にきちゃってあたし」
「ナプキン? 何それ」
翔にまだ生理がないことに驚く磯村。
「お客さん」に「おザブトン」…。古い…。昔ってこういう隠語発達してたよなー。

山岸作品によく出てくる「モノローグが饒舌な主人公」が、入学した先の大学で恐ろしい事件に巻き込まれるという話なのですが。
この作品のポイントはこれでしょう。スケベ心で死にかける主人公。なんか珍しいですよね山岸作品でこういう女の子キャラ。
磯村はある晩、心配を装ったスケベ心から彼女の裸体を見てしまう。

あたしときたら ああ! もう 絶望的なくらいスケベな人です

「老人を殺して血を絞る」という残忍な殺人事件が起きてるかと思えば主人公はこんなだよ!
他の作品の人たちはもう少しまともな理由で危機に瀕してたと思う(笑)

この話のテーマは「半陰陽(両性具有)」。現在ですらあまり認知されていないのに(つい最近マンガとドラマでちょっと話題になりましたが)、84年の時点では「男でも女でもない性」などという概念は一般の人の間では存在すらしてなかったのではないでしょうか? 昔も今も「男と女の中間はオカマ!」という共通認識を前提にしたギャグを飛ばす人の多いこと多いこと(別にいいんだけどね)。一般人の認識は未だにそんなもんです。
磯村も「彼女は半陰陽だった」といきなり聞かされてすぐ理解できたのかなあ。80年代の女子大生が知ってるとは思えない…。

翔は陸上選手であったというのがこの話の鍵のひとつですが、検索してみたら実際にいるんですねー、半陰陽の陸上選手。職業における男女の差が昔ほどではなくなってきてるとはいえ、スポーツの男女分けは致し方ないですよね…。どうしてもスポーツの世界で生きたい半陰陽の人はどうすればいいんだろう。
今まで認知されていなかったものに名前がつき、世間に認知されるようになると、それで対策などが練れて楽になるメリットと、却ってレッテルが貼られやすくなるデメリットがあると思うのですが、半陰陽の場合はどうなるのでしょうか。良い方向に向かうといいなと思います。本当に、「名前がつく」ということは諸刃の剣…。アスペだのワーキングプアだの罵倒語代わりに使う人いるじゃないですか…(主にネット上だけどたまにリアルでもいる…)。

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柿丸

柿丸
文化人類学的観点からマンガを研究したいただのマンガ好きです。データ収集が趣味。
ジャンプ歴10年でしたが2016.3に一旦卒業しました。
マンガの感想は基本的にネタバレです(どうせ古いマンガしか感想書かないので)。

【新刊追ってるマンガ】
アオイホノオ
おいピータン!!
大奥
カルバニア物語
きのう何食べた?
海月姫
たそがれたかこ
トクサツガガガ
ドリフターズ
ドロヘドロ
HUNTER×HUNTER
etc.

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